英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 その日シャルルはあちこちに引っ張りだこになったようで、リリアーヌやオーレリアンの勤務時間が終わっても執務室に戻ってこなかった。

 オーレリアンが、「俺はもうちょい残ってシャルルの様子を見るから、おまえは先に帰っていろ」と言ってくれたので、リリアーヌはありがたく上がらせてもらうことにした。

 迎えの馬車にこっそり乗り込んでシャルルの屋敷に帰ると、メイドたちは夕食の仕度をしており、リビングでは従者の青年が手紙の仕分けをしていた。

「ただいま戻ったわ」
「おかえりなさいませ、奥様。……ちょうどいいとこにいらっしゃいました。こちら、デュノア公爵家本邸からのお手紙です」
「……もらうわ」

 従者が差し出す手紙には確かに、デュノア公爵家の印が押されている。

 シャルルの実家からの、手紙。この時点で、あまりいい予感はしない。
 とはいえリリアーヌ宛てなので中を見たところ、それは公爵邸の執事からの手紙だった。

(……そう。公爵閣下の病症は、思わしくないのね)

 公爵は元々健康な男だったが、ここ半年ほどの間に少しずつ体を弱らせているようだ。ぎりぎりまで自分の不調を隠したい公爵だが、息子のシャルルが結婚して安心したこともあるのか、調子は上向くどころか下向きらしい。

(……つまり、早めに子作りをしろという催促かしら)

 直接的な表現は書かれていないものの、十分予想できた。

 まだ結婚して数日ではあるが、公爵からすると時間なんて問題ないのだろう。むしろ、息子の我が儘を叶えて年長の妻を迎えたのだから、早くやることをやって孫を産み、自分を安心させてほしい、と思っているのかもしれない。
< 34 / 93 >

この作品をシェア

pagetop