英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~

想いの行方

 今から八年前、十二歳だったシャルルは王国騎士団の門を叩いた。

 公爵家の嫡男ということもあり入団当初は同期からも敬遠されたが、一緒にいる間に打ち解けられるようになった。「皆で正騎士になろう!」と共に高め合える、かけがえのない存在の者たちだった。

 王国騎士団では、入団して最低二年間の見習い期間を経た末に正騎士採用試験を受けられる。正騎士採用試験を受験できる最低年齢が十四歳であるが、この年で合格できる者はほとんどいない。

 そんな中、シャルルは見事一度目の試験で合格した。
 それと同時に、彼の友だちは一人もいなくなった。

 同期の中で唯一シャルルだけが合格したことで、彼らはシャルルと距離を取った。見習いと正騎士の差というだけでなく、明らかに避けられた。

 それだけでなく、「あいつはきっと、実家が太いから」「父親が騎士団ににらみを利かせたのではないか」という噂まで流れたため、シャルルはもう同い年の友人たちと一緒にいることはできなくなった。

 シャルル自身、まさか合格できるとは思っていなかった。馬術も学力も問題なくて同期の中でも飛び抜けて剣術に優れていた自覚はあったが、当時の自分は背が低くて体の線も細く、体格の時点で不利だと分かっていたから。

 父は余計なことは何も言わずに正騎士になったことを褒めてくれたが、父の影響は何かしらあったはずだと、今でもシャルルは考えている。

 正騎士になってからも、十四歳のシャルルは皆から遠巻きにされた。正騎士採用試験は四十歳まで受けられるため、中にはシャルルの父親くらいの年齢の者もいた。
「自分は何十年もかけてやっと到達したのに、こいつはたった一度の挑戦で合格したのか」「どうせ、公爵家のぼっちゃんだからだろう」そんな声が聞こえた。

 そんなシャルルが正騎士の同期たち――年齢はまちまちだ――と仲よくできるはずもなく、彼は一人で行動することが多かった。

 それでも、自分は生まれだけで採用されたのではないと皆に思ってもらいたくて、努力をした。他の同期たちが「なんで俺たちが」とぼやくような雑務も進んで行ったし、「こんなの、補佐官ができたときに任せればいいだろう」と文句が噴出するような事務処理の講義も真面目に受けた。

 ……その講義で、シャルルはラチエ男爵令嬢リリアーヌと出会った。
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