英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
「それからの日々は、本当に楽しかった。オーレリアンとリリアーヌの三人で、ともに職務を行う。他の将軍から無理難題を押しつけられても三人で協力して解決に当たり、あちこちに出向いて、ときには冗談を言い合ったり街に出かけたりする。……本当に、楽しい毎日だった」

 目を細めたシャルルが言うので、リリアーヌは小さく息を吐き出した。

(六年前に……そうだったのね)

 もちろん、リリアーヌはそんな昔のことは覚えていない。

「……知らなかったです。六年前のことも、ちっとも覚えていなくて」
「ああ、そうだろうと思っていたからいいんだよ。……そういうことで、六年前に君に褒められたあの日からきっと、僕はずっと君のことが好きなんだ。好きだから君のところに課題を見せに行ったし、君をスカウトしようとしたし、君を男爵から守ろうと思った」

 それが恋だと気づいたのは最近だけどね、とシャルルは苦笑する。

「本当に、我ながら自分の頭の固さと鈍さには参ってしまうよ。きっかけがなければ、僕はずっとこの気持ちの正体が分からないままだっただろうからね」
「きっかけ?」
「……あー、ええと。この際だから言ってしまおうか」

 シャルルは気まずそうに口ごもってから、ふう、と息をついた。

「去年の冬くらいからだろうか。執務室にある僕のポストに、手紙が届くようになったんだ」

 シャルルの執務室の前には、三つのポストが並んでいる。それぞれシャルル、オーレリアン、リリアーヌ宛てで、城内郵便配達係が郵便物を入れたり、他の騎士が伝言のメモを入れたりするときに使うものだ。

「それは簡単に言うと、君宛てのラブレターだった」
「……私宛ての?」
「ああ。誤投函だろうな」

 きょとんとリリアーヌが問うと、シャルルはばつが悪そうにうなずいた。

 ポストは三つ並んでいて名前プレートもついているが、よく見ずに入れたのかもしれない。リリアーヌもたまに、シャルル宛ての荷物が自分のポストに入っているのを見たことがある。

(そうなのね。私にラブレターを書く人がいたなんて……)

 ふと、リリアーヌは目を瞬かせた。

「……そのラブレター、私はもらっていないのですが」
「……。……すまない、リリアーヌ。それらは全て、僕が持っている」
「あら」
「気になるのなら、後で渡す! 最初の一通はそもそも誤投函だったし宛名も送り主名もないから、僕宛てのものだと思って開封したんだ。そうしたら中には、君への想いが書かれていて……」

 おそらく城で働く誰かが書いたのだろうが、筆跡は見慣れない人物のものだった。そこにはリリアーヌを褒める言葉や、「これからも、遠くから見つめさせてください」というとても遠慮がちな言葉が書かれていた。

 当時から、シャルルはそのラブレターにもやっとしていた。リリアーヌ宛てだと分かっているが、彼女に渡すのが悔しく思われて……そのままデスクの引き出しに入れていたのだが、しばらくしてまた届いた。当然、また誤投函だった。
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