英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
「その後も、何通か手紙が届いた。それを見ていると……僕も、焦ってきたんだ」
「……」
「僕の知らない間に、君を見初めている男がいる。しかも、『ブラン伯爵令息と恋仲だという噂がある』なんてことも書かれていて……」
リリアーヌの頭の中を、女の子の肩を抱いてへらへら笑う同期の姿がよぎる。
「オーレリアンですか? 違いますよ?」
「分かっているよ。でも、うかうかしていると誰かにかっさらわれるかもしれない、と思うと僕も焦ってきて……。そうしていると、父上が病がちになられた。父上から公爵位を譲られる話が上がったとき、もう僕の頭の中にはリリアーヌのことしか思い浮かばなくなっていたんだ」
シャルルは小さく笑って、優しい眼差しでリリアーヌを見てきた。
「……というのが、僕が君のことを好きになった経緯だ。お分かりいただけたかな?」
「ええ、十分すぎるくらい分かりました」
「……手紙を隠していたことは、本当に申し訳ない」
「いいですよ。宛て先をきちんと見ずにポストに入れる人がいけないのですし」
……とはいえ正直、リリアーヌを見初めたのが六年前だったというのは意外だった。
よくもまあこれだけの長い間、他の女性との恋愛にうつつを抜かすことなく一途に想いを積み上げられたものだ。オーレリアンなら、きっと無理だっただろう。
「……聞けてよかったです。これでますます、あなたを支えたいという気持ちが強まりました」
「リリアーヌ……」
「私はまだ、あなたのことが恋愛的な意味で好きなのかどうか、はっきり言える自信がありません。しかし少なくとも、あなたからこうして好かれているということを嬉しく思いますし……あなたの話を聞きたい、私の話を聞いてほしい、と思えるようになりました」
過去のリリアーヌだったら、「私のことはいいので」と遠慮しただろう。それが、上司と部下として正しい在り方でもあるのだから。
それを聞いたシャルルは微笑み、そっとリリアーヌの手に触れてきた。
男性にしては体の線が細いシャルルだが、その手は自分の手をすっぽり覆えるほど大きいのだと、リリアーヌは今知った。
「ありがとう、リリアーヌ。……君に僕の初恋の話を聞かせられて、よかった。同時に、君の気持ちも聞けてよかったよ」
「そうですよね。言いたいことはちゃんと言えと、オーレリアンからも励まされましたし」
「……」
「あの人のアドバイスが役に立つのは少し癪でもありますが、経験豊富なのは確かですもの――」
「リリアーヌ」
ぐいっと手を引っ張られた。不意打ちを受けたリリアーヌは抵抗することもできずに体のバランスを崩してそのまま、シャルルの腕の中に倒れ込んだ。
「シャ――」
「今は、他の男の名前を口にしないで」
シャルルの顔を見上げたリリアーヌは、驚いた。
シャルルの目が、リリアーヌをじっと見ている。その目は、黒かと見まごうほど濃い青色で――彼の苛立ちのような感情が痛いほど伝わってきた。
「……」
「僕の知らない間に、君を見初めている男がいる。しかも、『ブラン伯爵令息と恋仲だという噂がある』なんてことも書かれていて……」
リリアーヌの頭の中を、女の子の肩を抱いてへらへら笑う同期の姿がよぎる。
「オーレリアンですか? 違いますよ?」
「分かっているよ。でも、うかうかしていると誰かにかっさらわれるかもしれない、と思うと僕も焦ってきて……。そうしていると、父上が病がちになられた。父上から公爵位を譲られる話が上がったとき、もう僕の頭の中にはリリアーヌのことしか思い浮かばなくなっていたんだ」
シャルルは小さく笑って、優しい眼差しでリリアーヌを見てきた。
「……というのが、僕が君のことを好きになった経緯だ。お分かりいただけたかな?」
「ええ、十分すぎるくらい分かりました」
「……手紙を隠していたことは、本当に申し訳ない」
「いいですよ。宛て先をきちんと見ずにポストに入れる人がいけないのですし」
……とはいえ正直、リリアーヌを見初めたのが六年前だったというのは意外だった。
よくもまあこれだけの長い間、他の女性との恋愛にうつつを抜かすことなく一途に想いを積み上げられたものだ。オーレリアンなら、きっと無理だっただろう。
「……聞けてよかったです。これでますます、あなたを支えたいという気持ちが強まりました」
「リリアーヌ……」
「私はまだ、あなたのことが恋愛的な意味で好きなのかどうか、はっきり言える自信がありません。しかし少なくとも、あなたからこうして好かれているということを嬉しく思いますし……あなたの話を聞きたい、私の話を聞いてほしい、と思えるようになりました」
過去のリリアーヌだったら、「私のことはいいので」と遠慮しただろう。それが、上司と部下として正しい在り方でもあるのだから。
それを聞いたシャルルは微笑み、そっとリリアーヌの手に触れてきた。
男性にしては体の線が細いシャルルだが、その手は自分の手をすっぽり覆えるほど大きいのだと、リリアーヌは今知った。
「ありがとう、リリアーヌ。……君に僕の初恋の話を聞かせられて、よかった。同時に、君の気持ちも聞けてよかったよ」
「そうですよね。言いたいことはちゃんと言えと、オーレリアンからも励まされましたし」
「……」
「あの人のアドバイスが役に立つのは少し癪でもありますが、経験豊富なのは確かですもの――」
「リリアーヌ」
ぐいっと手を引っ張られた。不意打ちを受けたリリアーヌは抵抗することもできずに体のバランスを崩してそのまま、シャルルの腕の中に倒れ込んだ。
「シャ――」
「今は、他の男の名前を口にしないで」
シャルルの顔を見上げたリリアーヌは、驚いた。
シャルルの目が、リリアーヌをじっと見ている。その目は、黒かと見まごうほど濃い青色で――彼の苛立ちのような感情が痛いほど伝わってきた。