英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
朝、出仕したシャルルを迎えたのはソファにだらしなく座るオーレリアンだった。
「おはよう、オーレリアン」
「おう、おはようシャルル。昨夜、実家の方はどうだった?」
オーレリアンに尋ねられたシャルルはデスクに向かい、軽く目を伏せた。
「父上の病症は、おそらくこれ以上回復することはないだろうと医師が言っていた。ご本人にはプライドがあるから、葬式のときまで皆に伝えるなと厳命されているけれどな」
「あの公爵らしいや。シャルルも、無理すんなよ」
「分かっている」
「それから、リリアーヌはどこだ? あいつ、いつも俺より早く来るのに」
オーレリアンの言葉に、ぴたりとシャルルの手が止まった。
「……リリアーヌは今日一日、休みを取っている」
「えっ? そんなの聞いて――」
言葉の途中で何かに気づいたらしく、ぱっとソファから立ち上がったオーレリアンは大股でシャルルのもとまで来て、その肩を乱暴に抱き寄せた。
「おいおい、まさかのまさか……?」
「……察してくれ」
「おう、察したとも! ……おめでとう、シャルル!」
バンバンと痛いくらい背中を叩く部下を、シャルルはじろりとにらんだ。
「ありがとう。……だが君、僕の知らないところでリリアーヌと話をしていたのではないか?」
「え? ああ、昨日のことか。あいつがおまえのことで悩んでいたから、ちょっと助言しただけだよ」
「……」
「分かった、分かったって。これからはなるべくリリアーヌと二人きりにならないようにするから、そうにらむな!」
両手を顔の高さに挙げて「降参」の格好をしながら距離を取るオーレリアンを一瞥してから、シャルルはデスクの引き出しに手を伸ばした。
いくつか並ぶ引き出しのうち、一番下。その引き出しの奥に、紐で束ねた手紙があった。
「……ああ、それ、持っていたのか」
「もしリリアーヌがほしいと言ったら、返さないといけないからな」
この送り主不明のラブレターについては、オーレリアンにだけ相談していた。
『……ラブレター、持ってこようか?』
今朝シャルルが問うと、腕の中のリリアーヌがふふっと笑う気配がした。
『いいえ、必要ありません』
『だが、元々君宛てだし……』
『いいのです。どうか、シャルルが処分してください』
リリアーヌはそう言ってシャルルの頬に触れ、しとやかな微笑を向けてきた。
『もう、他の方からのラブレターなんて必要ありません。……あなたがこれからも、私と共にいてくださるのでしたら』
シャルルはふっと笑い、手紙をまとめて握り潰して屑籠に放ったのだった。
その夜、シャルルは何度も「リリィ」とリリアーヌの名を呼んだ。
それが嬉しくて微笑むと、シャルルはなぜか困った顔をする。どうしてそんな顔をするのですか、と問うと、「君がかわいすぎるから」と、よく分からない理由が返ってきた。
それがおかしくてリリアーヌは声を上げて笑うが……すぐにそんな余裕もなくなり、ただただシャルルの愛情に揺さぶられ、翻弄されていった。
「おはよう、オーレリアン」
「おう、おはようシャルル。昨夜、実家の方はどうだった?」
オーレリアンに尋ねられたシャルルはデスクに向かい、軽く目を伏せた。
「父上の病症は、おそらくこれ以上回復することはないだろうと医師が言っていた。ご本人にはプライドがあるから、葬式のときまで皆に伝えるなと厳命されているけれどな」
「あの公爵らしいや。シャルルも、無理すんなよ」
「分かっている」
「それから、リリアーヌはどこだ? あいつ、いつも俺より早く来るのに」
オーレリアンの言葉に、ぴたりとシャルルの手が止まった。
「……リリアーヌは今日一日、休みを取っている」
「えっ? そんなの聞いて――」
言葉の途中で何かに気づいたらしく、ぱっとソファから立ち上がったオーレリアンは大股でシャルルのもとまで来て、その肩を乱暴に抱き寄せた。
「おいおい、まさかのまさか……?」
「……察してくれ」
「おう、察したとも! ……おめでとう、シャルル!」
バンバンと痛いくらい背中を叩く部下を、シャルルはじろりとにらんだ。
「ありがとう。……だが君、僕の知らないところでリリアーヌと話をしていたのではないか?」
「え? ああ、昨日のことか。あいつがおまえのことで悩んでいたから、ちょっと助言しただけだよ」
「……」
「分かった、分かったって。これからはなるべくリリアーヌと二人きりにならないようにするから、そうにらむな!」
両手を顔の高さに挙げて「降参」の格好をしながら距離を取るオーレリアンを一瞥してから、シャルルはデスクの引き出しに手を伸ばした。
いくつか並ぶ引き出しのうち、一番下。その引き出しの奥に、紐で束ねた手紙があった。
「……ああ、それ、持っていたのか」
「もしリリアーヌがほしいと言ったら、返さないといけないからな」
この送り主不明のラブレターについては、オーレリアンにだけ相談していた。
『……ラブレター、持ってこようか?』
今朝シャルルが問うと、腕の中のリリアーヌがふふっと笑う気配がした。
『いいえ、必要ありません』
『だが、元々君宛てだし……』
『いいのです。どうか、シャルルが処分してください』
リリアーヌはそう言ってシャルルの頬に触れ、しとやかな微笑を向けてきた。
『もう、他の方からのラブレターなんて必要ありません。……あなたがこれからも、私と共にいてくださるのでしたら』
シャルルはふっと笑い、手紙をまとめて握り潰して屑籠に放ったのだった。
その夜、シャルルは何度も「リリィ」とリリアーヌの名を呼んだ。
それが嬉しくて微笑むと、シャルルはなぜか困った顔をする。どうしてそんな顔をするのですか、と問うと、「君がかわいすぎるから」と、よく分からない理由が返ってきた。
それがおかしくてリリアーヌは声を上げて笑うが……すぐにそんな余裕もなくなり、ただただシャルルの愛情に揺さぶられ、翻弄されていった。