英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 リリアーヌは公爵に近づき、掛け布団の上に載せられていた手にそっと触れた。
 冷たくて骨張っていて……だが、確かな力強さの感じられる手だった。

「はい。必ずや、シャルル様をお支えします」
「……。……シャルルから聞いていたとおり、聡明で優しい女性だな」

 公爵は小声で言うと、小さく咳き込んだ。慌ててリリアーヌが肩に触れようとすると、「よい」と手のひらでそっとリリアーヌを押しやる。

「薬の時間だ。……リリアーヌ、今日は来てくれて感謝する」
「こちらこそ、急な訪問をお許しくださりありがとうございました。どうか、お大事に」

 リリアーヌはお辞儀をして、執事に促されて寝室を出た。
 廊下を歩いていると、瓶がたくさん並んだカートを押すメイドとすれ違った。おそらく、あれが公爵の薬なのだろう。

「本日はありがとうございました、リリアーヌ様」

 玄関ドアの前で執事に言われたので、リリアーヌは微笑んで首を横に振った。

「私こそ、公爵閣下にお会いできて嬉しかったです」
「……。……冬になった頃から旦那様は、『私の方から呼び出さねば』『だが、断られても仕方がない』とつぶやいてらっしゃいました」

 リリアーヌから視線をそらしながら、執事が言った。

「リリアーヌ様が手紙をくださらなかったら、このまま平行線だったかもしれません。あなたの勇気に、我々も心から感謝しております。どうか、これからもシャルル様のことをお願いします」
「……はい、もちろんです」

 リリアーヌは、しっかりうなずいた。
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