英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
(……あら? 私しばらく、月のものが来ていないわ)

 再びカレンダーに近づきながらポケットから手帳を出し、過去の記録を追う。
 これは仕事用の手帳なのでさすがに月のものの記録などはないが、過去の仕事内容を確認していると最後に月のものがあった日をなんとなく思い出すことができた。

(確か、秋の半ばにシャルル様が王女殿下の付き添いで城下町視察をされた日、お腹が痛くて午前中の仕事を休んだのだったわ……)

 その日からもう、四十日ほど経っている。元々不順な方なのであまり気にしなかったが、それにしても遅すぎる。

 ――もしかして。

「……赤ちゃん、できた?」

 呆然とつぶやいて、さっとお腹に手を当てる。
 まだそこはぺたんとしているし、毎日風呂に入る前に鏡で見る自分の姿にも、これといった変化はない。体調も良好だから、勘違いかもしれない。

 だが。

(可能性は、十分にある……わよね?)

 そう思った途端に、どきどきしてきた。

 シャルルとは、「早く授かれるといいな」という話をしていた。先日公爵邸に行ったときに公爵も孫の誕生を楽しみにしているようだったし、シャルルが戻ってきたら改めてその話もしようと考えていた。

(ど、どうしよう。まずは、メイドに相談しないと……)

 勘違いの可能性もあるし、そもそもリリアーヌが体のことで相談できる人は少ない。オールワークスメイドとして家にいてくれるメイドは子どもを産んだことがあるそうだから、きっと相談に乗ってくれる。

 そういうことでリリアーヌは早めに上がらせてもらうことにして、急ぎ家に帰ってメイドに相談した。
 メイドは驚いたものの、「もしそうだとしたら、これ以上の喜びはありません」とリリアーヌの手を握って言ってくれた。そうして、公爵家にも内密に診療をしてくれる医者を探してくれることになった。

(ぬか喜びだった場合、公爵閣下にも申し訳ないものね)

 公爵家であれば口が硬くてかつ優秀な医者をすぐに呼んでくれるだろうが、「違いました」となった場合に皆を落胆させてしまう。シャルルも不在なので、なるべく水面下で準備を進めておきたかった。

(……もし、ここにシャルル様の子どもがいるのなら)

「……ありがとう」

 そっと腹を撫でながら、リリアーヌは誰にともなくつぶやいたのだった。
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