英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
「……リリアーヌ嬢ですか」
「っ!?」
聞こえてきたのはオーレリアンではない男性の声だったため、ペンを取り落とすかと思った。
執務室の前に、知らない男が立っていた。比較的若いと見えるが、彼が着ている服は王城使用人や文官、騎士の制服ではない。
(……いえ。あのデザインは、昔見たことが――)
どこで見たのか必死に思い出しながら、リリアーヌは立ち上がる。
「はい、リリアーヌでございます。名乗る家名がなく、申し訳ございません」
リリアーヌがそう言ってお辞儀をすると、男性はしばし黙った後に口を開いた。
「……お仕事中、申し訳ございません。私は、デュノア公爵家に仕える連絡係でございます」
男性が言った瞬間、リリアーヌは思い出した。そう、これはシャルルの実家であるデュノア公爵家の使用人の制服だった。ずっと前に見たことがあるくらいなので、忘れかけていた。
(デュノア公爵家……。もしかして、シャルル様の……?)
ここ最近ずっと仕事を休んでいる上官の顔が脳裏をよぎり、リリアーヌは急いて尋ねる。
「シャルル様のことですか?」
「はい。シャルル様より、至急リリアーヌ嬢を屋敷にお連れする命令を受けております」
「……私だけですか?」
ここはむしろ補佐官であるリリアーヌより副官のオーレリアンの方が出るべき場面なのでは、と思ったのだが、連絡係の男性は首を横に振った。
「いいえ、シャルル様はリリアーヌ嬢だけをお呼びです。お仕事途中でも構わないので、今すぐお越しください」
「……かしこまりました」
男性の口調や物言いは丁寧だが、なんとしてでもリリアーヌを今すぐ連れて行くという意志が強く伝わってくる。
(それに、シャルル様がお待ちなのだから……) 服もそのままでいいと言ったので、リリアーヌはジャケットとロングスカートの格好で行くことにした。
補佐官には制服はないのだがせっかく将軍に仕えるのだからと、騎士団の制服に少しデザインを真似たものを自分で準備した。これはシャルルやオーレリアンにも好評で、補佐官になって四年経つがずっとこれを愛用していた。
急いで荷物をまとめると、男性がそれを預かってくれた。だが、「申し訳ございませんが、人目を避けて移動します」と言われ、あまり人通りのない廊下や階段を通り、王城の裏門に出た。そこには、窓にカーテンが掛かった状態の馬車が停まっている。
(かなり怪しいけれど、あれはデュノア公爵家の家紋ね)
まるで護送馬車のようだが、公爵家の家紋がついているのだから誘拐ではない。男性に促されたリリアーヌは、誰も見ていない隙に馬車に乗り込んだ。
カーテンが掛かっているため、車内は薄暗い。御者席に乗った男性が「申し訳ございませんが、カーテンはこのままで」と言うので夕日を車内に取り入れるのは諦め、馬車の動きに身を委ねることにした。
(シャルル様……何があったのかしら)
体調を崩したとかでなければいいのだが。
「っ!?」
聞こえてきたのはオーレリアンではない男性の声だったため、ペンを取り落とすかと思った。
執務室の前に、知らない男が立っていた。比較的若いと見えるが、彼が着ている服は王城使用人や文官、騎士の制服ではない。
(……いえ。あのデザインは、昔見たことが――)
どこで見たのか必死に思い出しながら、リリアーヌは立ち上がる。
「はい、リリアーヌでございます。名乗る家名がなく、申し訳ございません」
リリアーヌがそう言ってお辞儀をすると、男性はしばし黙った後に口を開いた。
「……お仕事中、申し訳ございません。私は、デュノア公爵家に仕える連絡係でございます」
男性が言った瞬間、リリアーヌは思い出した。そう、これはシャルルの実家であるデュノア公爵家の使用人の制服だった。ずっと前に見たことがあるくらいなので、忘れかけていた。
(デュノア公爵家……。もしかして、シャルル様の……?)
ここ最近ずっと仕事を休んでいる上官の顔が脳裏をよぎり、リリアーヌは急いて尋ねる。
「シャルル様のことですか?」
「はい。シャルル様より、至急リリアーヌ嬢を屋敷にお連れする命令を受けております」
「……私だけですか?」
ここはむしろ補佐官であるリリアーヌより副官のオーレリアンの方が出るべき場面なのでは、と思ったのだが、連絡係の男性は首を横に振った。
「いいえ、シャルル様はリリアーヌ嬢だけをお呼びです。お仕事途中でも構わないので、今すぐお越しください」
「……かしこまりました」
男性の口調や物言いは丁寧だが、なんとしてでもリリアーヌを今すぐ連れて行くという意志が強く伝わってくる。
(それに、シャルル様がお待ちなのだから……) 服もそのままでいいと言ったので、リリアーヌはジャケットとロングスカートの格好で行くことにした。
補佐官には制服はないのだがせっかく将軍に仕えるのだからと、騎士団の制服に少しデザインを真似たものを自分で準備した。これはシャルルやオーレリアンにも好評で、補佐官になって四年経つがずっとこれを愛用していた。
急いで荷物をまとめると、男性がそれを預かってくれた。だが、「申し訳ございませんが、人目を避けて移動します」と言われ、あまり人通りのない廊下や階段を通り、王城の裏門に出た。そこには、窓にカーテンが掛かった状態の馬車が停まっている。
(かなり怪しいけれど、あれはデュノア公爵家の家紋ね)
まるで護送馬車のようだが、公爵家の家紋がついているのだから誘拐ではない。男性に促されたリリアーヌは、誰も見ていない隙に馬車に乗り込んだ。
カーテンが掛かっているため、車内は薄暗い。御者席に乗った男性が「申し訳ございませんが、カーテンはこのままで」と言うので夕日を車内に取り入れるのは諦め、馬車の動きに身を委ねることにした。
(シャルル様……何があったのかしら)
体調を崩したとかでなければいいのだが。