英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 シャルルの叱責にオーレリアンが返したところでどやどやと人の声がしてきたため、「追いついたようだな」とオーレリアンは額に汗をかきながらも笑った。

「ほら、将軍閣下が采配を振るう場面だ。俺は勝手に医務室に行くから、おまえがぶん殴った男の始末とリリアーヌのケアを頼んだ」
「……分かった」
「オーレリアン、無理はしないでください」

 リリアーヌも言うと、自力で立ち上がったオーレリアンは自信たっぷりに笑った。

「おう、分かっているさ。……リリアーヌこそ、調子が悪いんだろう。怪我もしているようだし……ゆっくり休めよ」
「分かっています」

 どう見ても自分の方が重症なのに強がるオーレリアンのことが心配でリリアーヌがややぶっきらぼうに言うと、彼は「また後でな」と笑って歩いていった。

 その後駆けつけてきたのは、シャルルたちが今回の遠征に連れて行っていた騎士たちだった。
 彼らが乗っている馬はシャルルとオーレリアンの愛馬よりも体が小さいので、追いつくまでに時間がかかってしまったようだ。

「将軍! 先ほど、ブラン副官が腕を負傷して……」
「ああ。……そこの男を捕らえよ。ナイフを回収して、現場保存もするように」

 シャルルはてきぱきと指示を出しながら、リリアーヌの背中と足の裏に腕を回し、ひょいと抱え上げた。

「きゃっ!?」
「君も医務室に行こう、リリアーヌ」
「わ、分かりました。でも私は問題なく歩けますので、シャルル様はこの場で指揮を――」
「……できるわけ、ないだろう」

 シャルルの声が震え、リリアーヌのつむじに彼の額がぶつけられた。
 そこが少しだけじわっと湿ったように感じられるのは、気のせいだろうか。

「怖かっただろう、リリアーヌ。こんなに震えて、真っ青になっている君を、一人で行かせるわけないだろう」
「シャルル様……」
「将軍……」

 近くにいた騎士がシャルルを見て、「ここは大丈夫です」と言った。顔を上げたシャルルは彼を見て小さくうなずき、リリアーヌを抱えて歩き出した。

「君もそうだし、オーレリアンも心配だ。……傷はさほど大きくないようだったが、筋肉の負傷箇所によっては運動機能が阻害されるかもしれない」
「……」
「でも、君はまず自分のことを心配してくれ。……さっきのことも、後でゆっくり聞くから」

 噛みしめるように、言い聞かせるようにシャルルに言われて、リリアーヌはうなずいてから彼の胸に身を預けた。

「……ありがとうございます、シャルル様」
「……君のためなら、僕は何だってするよ」

 そう言うシャルルの声音は、どこまでも優しかった。
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