英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
「夢といっても、本当にたいしたことがないんだけど。……俺とシャルルとリリアーヌの三人がずっと仲間でいられる、っていうものだ」
「……」
「あそこで俺が飛び出さなかったら、リリアーヌの心が壊れていたかもしれない。シャルルが傷ついていたかもしれない。この腕一本と引き換えにおまえたちの体と心を守れたのだから、俺は満足なんだ。本当なんだよ」
「……」
「……なーんてな! とはいってもこれは、ろくでもないことばかりしてきた俺に神が下した罰なのかもしれないし、あーだこーだ言っても仕方ないよな」
この話は終わり! とオーレリアンは右手で自分の膝を打ち、それからリリアーヌたちを見てきた。
「……んで? 他にも話があるって聞いたんだけど?」
「……あるには、ある」
「なら言えよ。俺の怪我のことなんて気にしなくていいから、ほら、言え!」
「……。……あの、オーレリアン」
リリアーヌはオーレリアンのベッドに近づき、シャルルは彼の背後に回った。
そうしてシャルルがオーレリアンの背中を押してリリアーヌの方に体を傾けさせてから、リリアーヌはオーレリアンの右手を取って自分のお腹に当てた。
「昨日、お医者様に診てもらって……私、お腹に赤ちゃんがいるのです」
「……えっ?」
「医者の話では、秋頃に妊娠したのではないかとのことだった。……順調にいけば、生まれるのは来年の夏の終わり頃になるらしい」
シャルルもそう言うが、その口調は少しだけ重い。
元男爵による事件があったものの、リリアーヌは医者の診察を受けた。そうして、妊娠が判明したのだった。
診察にはシャルルも付き添ってくれており二人は手を取り合って喜び帰宅したが、同時にオーレリアンのことを思い出して一気に気持ちが沈んでしまった。ちょうど次の日にオーレリアンの見舞いに行く予定だったので、そこで言うしかないだろう、ということになった。
オーレリアンはしばらくぽかんとしていたが、やがてその顔がじわじわと怒りに染まり、自由に動かせる頭を振るってシャルルの胸に頭突きした。
「……この馬鹿野郎が! せっかくのめでたい話なのに、そんな辛気くさい顔をしているんじゃねぇ! おまえが父親だろう!?」
「だが……」
「あー、もう、本当に面倒くさいやつめ! おい、リリアーヌ」
「はい……」
「おめでとう。本当に……よかった」
シャルルに対しては暴れまくるのに、リリアーヌへの声かけとお腹に触れる右手はどこまでも優しい。
「おまえ、この体であのおっさんに立ち向かっていたんだな。……本当によく頑張ったよ」
「……オーレリアンこそ。あなたがいてくれたから、私もこの子も無事だったのですよ」
リリアーヌが声を震わせると、オーレリアンはへへっと笑った。
「そりゃあよかった! ……リリアーヌ、元気な子を産めよ。おまえなら絶対に、いい母親になれる。俺が保証するとも!」
「オーレリアン……ありがとうございます」
「どういたしまして。……それより、シャルル! おまえのことは許さないから、後で決闘しろ!」
「……。……ああ、望むところだ。手加減はしない」
一瞬戸惑った表情になったものの、シャルルは喧嘩を買って強気に微笑んだ。ここでオーレリアンの傷のことに触れてもますます彼を怒らせるだけだと、気づいたのだろう。
仲よく喧嘩をする上官と同僚を眺めて、リリアーヌは小さく笑った。
……お腹の中で、まだ麦粒ほどの大きさだろう子どもが、笑った気がした。
「……」
「あそこで俺が飛び出さなかったら、リリアーヌの心が壊れていたかもしれない。シャルルが傷ついていたかもしれない。この腕一本と引き換えにおまえたちの体と心を守れたのだから、俺は満足なんだ。本当なんだよ」
「……」
「……なーんてな! とはいってもこれは、ろくでもないことばかりしてきた俺に神が下した罰なのかもしれないし、あーだこーだ言っても仕方ないよな」
この話は終わり! とオーレリアンは右手で自分の膝を打ち、それからリリアーヌたちを見てきた。
「……んで? 他にも話があるって聞いたんだけど?」
「……あるには、ある」
「なら言えよ。俺の怪我のことなんて気にしなくていいから、ほら、言え!」
「……。……あの、オーレリアン」
リリアーヌはオーレリアンのベッドに近づき、シャルルは彼の背後に回った。
そうしてシャルルがオーレリアンの背中を押してリリアーヌの方に体を傾けさせてから、リリアーヌはオーレリアンの右手を取って自分のお腹に当てた。
「昨日、お医者様に診てもらって……私、お腹に赤ちゃんがいるのです」
「……えっ?」
「医者の話では、秋頃に妊娠したのではないかとのことだった。……順調にいけば、生まれるのは来年の夏の終わり頃になるらしい」
シャルルもそう言うが、その口調は少しだけ重い。
元男爵による事件があったものの、リリアーヌは医者の診察を受けた。そうして、妊娠が判明したのだった。
診察にはシャルルも付き添ってくれており二人は手を取り合って喜び帰宅したが、同時にオーレリアンのことを思い出して一気に気持ちが沈んでしまった。ちょうど次の日にオーレリアンの見舞いに行く予定だったので、そこで言うしかないだろう、ということになった。
オーレリアンはしばらくぽかんとしていたが、やがてその顔がじわじわと怒りに染まり、自由に動かせる頭を振るってシャルルの胸に頭突きした。
「……この馬鹿野郎が! せっかくのめでたい話なのに、そんな辛気くさい顔をしているんじゃねぇ! おまえが父親だろう!?」
「だが……」
「あー、もう、本当に面倒くさいやつめ! おい、リリアーヌ」
「はい……」
「おめでとう。本当に……よかった」
シャルルに対しては暴れまくるのに、リリアーヌへの声かけとお腹に触れる右手はどこまでも優しい。
「おまえ、この体であのおっさんに立ち向かっていたんだな。……本当によく頑張ったよ」
「……オーレリアンこそ。あなたがいてくれたから、私もこの子も無事だったのですよ」
リリアーヌが声を震わせると、オーレリアンはへへっと笑った。
「そりゃあよかった! ……リリアーヌ、元気な子を産めよ。おまえなら絶対に、いい母親になれる。俺が保証するとも!」
「オーレリアン……ありがとうございます」
「どういたしまして。……それより、シャルル! おまえのことは許さないから、後で決闘しろ!」
「……。……ああ、望むところだ。手加減はしない」
一瞬戸惑った表情になったものの、シャルルは喧嘩を買って強気に微笑んだ。ここでオーレリアンの傷のことに触れてもますます彼を怒らせるだけだと、気づいたのだろう。
仲よく喧嘩をする上官と同僚を眺めて、リリアーヌは小さく笑った。
……お腹の中で、まだ麦粒ほどの大きさだろう子どもが、笑った気がした。