英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 オーレリアンの腕は結局、治らなかった。

 医者もそう言っていたしオーレリアン本人も受け入れていたので、それほどのショックはなかったようだ。壊死による切断だけは回避できただけ十分だと、オーレリアンは笑っていた。

 オーレリアンの利き手は右だが、左手が指先がわずかに動くくらいになってしまった以上、騎士として生きることはできない。そのため彼は騎士団を退き、また怪我を理由に父親から伯爵位を譲られることも拒否した。ブラン伯爵位は、彼の年の離れた弟に引き継がれるそうだ。

 シャルルたちによる共和国との交渉は、王国側にとって大成功の形で収まった。シャルルとオーレリアン二人の行動により夜間に忍び込んだ密偵たちを撃退できたこと、そしてそれをダシに共和国に脅しをかけて様々な条約を結ばせるに至ったことは、王国中に広まった。
 シャルルのことを「お飾り将軍」と侮っていた者たちも、見解を改めたという。

 だがシャルルは、これまで自分が将軍としてやってこられたのは副官のオーレリアン、そして補佐官のリリアーヌのおかげであると痛感したようで、彼は将軍職を退くことを決意した。
 お飾りではない、自分の力で騎士として認められるようになりたい、と言う彼のことをリリアーヌも応援し、シャルルは士官に戻った。異例の、依願降格である。

 それでも彼の才覚が惜しいと感じた上層部により、シャルルは小隊長に任ぜられた。将軍であるときには悩ましげな表情をすることも多かったシャルルが同じ年頃の騎士たちと共に生き生きと働く姿を見られるのは、リリアーヌにとっても嬉しいことだった。
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