英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 そうして、年が明けて春。

 リリアーヌのお腹が隠しようもないくらい大きくなったこと、そして……あのデュノア公爵が認めたことなどがあり、シャルルとリリアーヌの結婚が発表された。

 同時にリリアーヌは出産に備えてシャルル付補佐官の職を退き、彼の屋敷で暮らすようになった。
 もう人目をはばかってこそこそ出入りしなくても、窓から顔を出さないように気をつけなくてもよくなり、お腹の子もすくすく育っていった。

 なお、シャルルにお熱だった王女は結婚の話を聞いて泣き叫んだらしい。
 だがしばらくしてリリアーヌのもとに来て、「シャルルを幸せにしなかったら、許さないわ!」と真っ赤な顔で言い、結婚祝いだという折り紙で作った花を渡してくれた。

 息子の結婚を発表できたことがよい結果をもたらしたのか、デュノア公爵の病症も落ち着いてきた。そして思うことがあったのか、彼は自分が病を得ていることも公表した。

 相変わらず厳格な公爵であるが、「孫の顔を見るまでは、死んでも死にきれない」と豪語し、子ども用の服やおもちゃなどを大量に買おうとしては息子に叱られていた。

「……本当に、止めるのに必死だったんだ。父上だけでなくて、屋敷の者たちも皆、あれこれ買おうとしていて」

 仕事の帰りに実家に寄ったというシャルルは帰宅するなり、げんなりとした顔で言った。

「気持ちだけでいいから、と言うと……父上、どうしたと思う? 手製のものなら僕もリリィも断れないだろうと悪知恵を働かせたようで、ベッドの上でもできる編み物を習い始めたそうなんだ」
「……冗談ですよね?」
「あの目は間違いなく、本気だった」

 どこまで祖父馬鹿なんだ……と頭を抱えるシャルルに、リリアーヌは笑みをこぼした。

「でも、よかったです。公爵閣下も少しずつ元気になられているようですし……この子が生まれるのを、楽しみにしてくださっているのですから」
「そうだな。……父上はもう、僕が爵位を継ぐことについてもそれほど野心がないようだった」

 リリアーヌと並んでソファに座っていたシャルルはそう言って、目を閉ざした。

「……僕もしばらくは、騎士としてできることをしたいと思っている。そして、やるべきことを全て終えたなら……公爵位を継ごうと思っているんだ」
「とても素敵なことだと思います」
「ありがとう。……そのときには君に、公爵夫人になってもらうけれど」

 シャルルが気遣わしげにこちらを見てきたので、リリアーヌは笑みを深めた。

「そんなの、今更ですよ。去年の夏にあなたと結婚すると決めたときから、私は自分がいずれ公爵夫人になると覚悟していたのですから」
「……そうか」
「ただまあ、あのときはシャルル様と心から愛し合えるのか不安でしたが」
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