英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
※こわれた世界の物語《起》
「なあ、リリアーヌ。折り入って頼みがある」
「内容にもよりますが、一応聞きましょう」
オーレリアンが同僚のリリアーヌに頼みごとをしたのは、聖王暦四十四年の冬のことだった。
書庫で資料探しをしていた彼女を探し出したオーレリアンは、「もちろん、なんでもどうぞ」とは絶対に言わないリリアーヌに苦笑しつつ、声を潜めた。
「シャルルの補佐官であるおまえの力で、十日後の夜に俺たち三人に仕事を割り振ってくれ」
「……妙な依頼ですね。さてはその日に何かあり、サボるための口実作りですか?」
聡いリリアーヌが目を細めて問うてきたため、オーレリアンは降参とばかりに両手を挙げた。
「そういうことだ。その日、リュパン元帥が自邸で夜会を開くそうでな、俺とシャルルにも声をかけられたんだ」
リュパン元帥は王国騎士団のトップで、厳格な強面が印象的ではあるがその実かなり気さくで楽しいことが好きな男性で、よく自邸でパーティーを開いていた。
デュノア公爵令息であるシャルルやブラン伯爵令息であるオーレリアンは、実家の都合もあり様々なパーティーに誘われるのだが、何だかんだ言い訳しながらサボっていた。
リュパン元帥には世話になっているが、会議を兼ねた晩餐会ならともかく、ただ踊っておしゃべりをするだけの会はなるべく遠慮したい。
(それにこういうのは間違いなく、見合いの意味も兼ねているしな)
そこまでは言わないもののオーレリアンが説明すると、リリアーヌは肩を落とした。
「なるほど、それで夜会をサボる口実を作るために、私に仕事を割り振るよう頼んでいるのですね。……なぜそんな、いたずらの片棒を担ぐようなことを」
「頼むよ。おまえは俺よりよほど真面目だから信頼されているし、そんなおまえからの頼みだと言われたらリュパン元帥だって理解してくださるんだ。それに、俺はまだしもシャルルの方は休ませてやりたいと思わないか?」
最初は気乗りしていなそうな顔をしていたリリアーヌだが、シャルルの名を出すとむっと顔をしかめた。
三年ほど前に自分を補佐官として登用してくれたシャルルへの恩があるとのことで、リリアーヌはシャルルには甘い。オーレリアンもそれが分かっていて、シャルルの名前を出したのだ。
「……それは確かに。シャルル様は毎日お忙しいですし、勤務の後にパーティーに行って疲れ果ててしまうよりは……」
「だろう? だから、頼む!」
「……分かりました」
やれやれ、とリリアーヌは息を吐き出し、持っていた本を本棚に戻した。
「なんとかそれらしい言い訳を考えておきましょう」
「ああ、ありがとう、リリアーヌ! やはりおまえは俺たちの女神だ!」
「やめてください」
感謝のハグをしようとするオーレリアンの胸を押して、リリアーヌは「用が済んだのなら、あっちに行ってください」と素っ気なく言って書庫の奥の方に消えていった。
「内容にもよりますが、一応聞きましょう」
オーレリアンが同僚のリリアーヌに頼みごとをしたのは、聖王暦四十四年の冬のことだった。
書庫で資料探しをしていた彼女を探し出したオーレリアンは、「もちろん、なんでもどうぞ」とは絶対に言わないリリアーヌに苦笑しつつ、声を潜めた。
「シャルルの補佐官であるおまえの力で、十日後の夜に俺たち三人に仕事を割り振ってくれ」
「……妙な依頼ですね。さてはその日に何かあり、サボるための口実作りですか?」
聡いリリアーヌが目を細めて問うてきたため、オーレリアンは降参とばかりに両手を挙げた。
「そういうことだ。その日、リュパン元帥が自邸で夜会を開くそうでな、俺とシャルルにも声をかけられたんだ」
リュパン元帥は王国騎士団のトップで、厳格な強面が印象的ではあるがその実かなり気さくで楽しいことが好きな男性で、よく自邸でパーティーを開いていた。
デュノア公爵令息であるシャルルやブラン伯爵令息であるオーレリアンは、実家の都合もあり様々なパーティーに誘われるのだが、何だかんだ言い訳しながらサボっていた。
リュパン元帥には世話になっているが、会議を兼ねた晩餐会ならともかく、ただ踊っておしゃべりをするだけの会はなるべく遠慮したい。
(それにこういうのは間違いなく、見合いの意味も兼ねているしな)
そこまでは言わないもののオーレリアンが説明すると、リリアーヌは肩を落とした。
「なるほど、それで夜会をサボる口実を作るために、私に仕事を割り振るよう頼んでいるのですね。……なぜそんな、いたずらの片棒を担ぐようなことを」
「頼むよ。おまえは俺よりよほど真面目だから信頼されているし、そんなおまえからの頼みだと言われたらリュパン元帥だって理解してくださるんだ。それに、俺はまだしもシャルルの方は休ませてやりたいと思わないか?」
最初は気乗りしていなそうな顔をしていたリリアーヌだが、シャルルの名を出すとむっと顔をしかめた。
三年ほど前に自分を補佐官として登用してくれたシャルルへの恩があるとのことで、リリアーヌはシャルルには甘い。オーレリアンもそれが分かっていて、シャルルの名前を出したのだ。
「……それは確かに。シャルル様は毎日お忙しいですし、勤務の後にパーティーに行って疲れ果ててしまうよりは……」
「だろう? だから、頼む!」
「……分かりました」
やれやれ、とリリアーヌは息を吐き出し、持っていた本を本棚に戻した。
「なんとかそれらしい言い訳を考えておきましょう」
「ああ、ありがとう、リリアーヌ! やはりおまえは俺たちの女神だ!」
「やめてください」
感謝のハグをしようとするオーレリアンの胸を押して、リリアーヌは「用が済んだのなら、あっちに行ってください」と素っ気なく言って書庫の奥の方に消えていった。