英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 リュパン元帥がパーティーを開く当日は予定どおり、リリアーヌが持ってきた「急ぎの案件」の始末をするため、定時を過ぎても三人で残ることになったのだが。

「ほら、飲むぞ飲むぞ!」
「……お酒でないですよね?」
「ジュースだ。飲んでみろ」

 グラスに注いだ飲み物を見て訝しむリリアーヌに渡して飲ませると、彼女は「あら」と少し頬を緩めた。

「おいしいわ。……シャルル様も、飲まれますか? 甘すぎず酸っぱすぎない、とても上品な味わいです」
「いいな、もらおうか」

 シャルルも乗り気になったようなので三人分のジュースをグラスに注ぎ、チン、とぶつける。

「我らが女神リリアーヌに、乾杯!」
「乾杯」
「シャルル様、そこは否定してください。……乾杯」

 カーテンを閉めた執務室で、三人はグラスを傾ける。
 オーレリアンは辛いもの、シャルルは苦いもの、リリアーヌは甘いものが好きということで趣向がまったく違う三人だが、ここは年長者のオーレリアンが少し譲歩して甘めのジュースにしたから、シャルルとリリアーヌはおいしそうに飲んでいた。

「……何だかんだ言いましたが、たまにはこういうのもいいですね」

 味がお気に召したようで手酌で二杯目を注ぐリリアーヌが言うので、そうだろう、とオーレリアンはうなずく。

「ずっと小難しいことばかり考えていたら、頭も体もなまってしまう。こうやって背徳感を抱きながら飲むと、楽しいだろう」
「君は普段から、背徳行為ばかりしているようだがな」
「おい、俺をなんだと思っているんだ!」

 オーレリアンが突っ込むがシャルルは薄く笑うだけで、リリアーヌもくすくす笑って知らぬふりをするだけだ。

 ――この距離感が、オーレリアンは好きだった。

 オーレリアンとシャルルと、リリアーヌ。
 三人が性別を超えた友情で繋がっていられる時間が続くのなら、道化を演じるくらいなんてことない。

(俺がお節介を焼かないと、シャルルとリリアーヌの仲が深まりそうにないしなぁ)

 今もリリアーヌがおかわりを注いでくれるのをシャルルがしれっと受け入れているが、シャルルはきっと内心、リリアーヌに注いでもらえて喜んでいるだろう。

 よくよく観察するとリリアーヌへの思慕の情がぽろりぽろりと見え隠れしているシャルルと違い、リリアーヌの方はいまいち分からない。だが彼女だって、シャルルのことを悪くは思っていないはず。

(まあ、これが恋だの愛だのと分からないままでいる方が、こいつらは幸せなんだろうな)

 まだ二十歳と若いシャルルはいずれ、名家の令嬢と結婚するだろう。
 一方のリリアーヌはもう二十五歳ということもあり、父親から放置されているということもあり、このままシャルルの補佐官として静かに生きていくのかもしれない。

(それくらいなら、俺がもらってやるって言うけれど……)

 オーレリアンもリリアーヌのことは好ましいと思っているし、もし彼女が一人寂しく生きていくようなら今の恋人たち全員に別れを切り出し殴られ詰られてでも、リリアーヌに手を差し伸べようと思っていた。

 それくらいには、オーレリアンもリリアーヌのことが好きだった。
< 70 / 93 >

この作品をシェア

pagetop