英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 医者の見立てどおり、その年の冬の初めにリリアーヌは元気な双子の男女を出産した。
 それほど若くない二十六歳という年齢の初産でありながら双子を無事に産み落とせたことで、医者も安心していた。

 男児の方は父親と同じ赤髪だったが、女児の方は金髪だった。両親のどちらにも似ない色だがオーレリアンの母親と弟が金髪だったため、隔世遺伝だと分かった。
 今は田舎で暮らしている両親は、跡取りの男児だけでなく女児まで一度に生まれたことにとても喜んでいた。

 相変わらずシャルルは表面上、将軍としての務めをきちんと果たしていた。だがリリアーヌの出産を聞いたときには秀麗な顔をこわばらせていたし、「おめでとう」と言う声は震えていた。

 心を閉ざしているリリアーヌは相変わらず言葉少なではあるが、愛情深い眼差しで双子を見つめており、子どもたちは母親にとても懐いていた。

 オーレリアンは、そんな一幅の絵画のような母子の姿を少し離れたところから見つめるのが、好きだった。

 そしてしばらく経った頃、シャルルが結婚したという知らせが届いた。

 相手は傍系王族の令嬢らしく、ずっと前に夜会でシャルルを見たときに一目惚れし、それからというもの父親や公爵に掛け合っていたそうだ。
 シャルル本人は「愛せる自信がない」と拒み続け、息子の意見を尊重する公爵も渋い顔をしていたが、どうしても、と押し切られたそうだ。公爵としても、息子に爵位を継がせるためなら……と考えたのだろう。

「そうだ」という伝聞の形なのは、子どもが生まれたのを契機にオーレリアンが騎士団を退き、ブラン伯爵として本格的に内政などに取り組むことになったからだ。

(むしろ、今のあいつの近くに俺はいない方がいいだろうが……あいつ、奥さんとやっていけるのかね)

 オーレリアンは、元上司となったシャルルのことを案じていた。

 どう見てもシャルルは、リリアーヌのことを引きずっていた。時薬で癒やされるどころか、リリアーヌの妊娠や出産などの出来事が重なるたびに彼の青色の目は昏く淀んでいっていた。

 そんな状態のシャルルと結婚するなんて相手の令嬢はそれでいいのか、と思えてくる。だが、妻子を連れて王都から伯爵領に移動したオーレリアンにできることはなかった。

(なんとかやっていけよ、シャルル)

 無責任だとは思いつつも、そんなことを心の中で呼びかけた。
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