英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 あの後、リリアーヌと話をしようとした。だが彼女は先ほどの流暢さが嘘のように口をつぐみ、オーレリアンが何を言おうと応じなかった。

 ふざけんな、と思いながらも、オーレリアンには何もできない。相手は公爵であるし、なんといってもリリアーヌ本人が快諾してしまったのだから。








 その日の夜、オーレリアンとリリアーヌはシャルルの屋敷に行った。
 現役だった頃にはしばしば訪問して、三人で酒を飲んだりゲームをしたりした懐かしい場所だが、そこはまるで幽霊屋敷のようにひっそり閑としていた。

 シャルルは、父親から話を聞いていたようだ。
 ナイトドレスを着て寝室にやってきたリリアーヌを見るなり、げっそりとした顔のシャルルは彼女をかき抱いた。そうして、すまない、すまない、と壊れたおもちゃのように何度も謝罪の言葉を繰り返す。

 リリアーヌはそんなシャルルをたしなめたり拒絶したりするどころか、優しい手つきで背中を撫でており――廊下で様子を見ていたオーレリアンは、全身をぶん殴られたに等しい衝撃を受けた。

(リリアーヌ。おまえの心はずっと、シャルルのところにあったのか)

 その事実は恐ろしいほどしっくりとオーレリアンの胸に落ち着き、泣きたいような怒りたいような気持ちになってくる。

 抱き合う二人をこれ以上見ていられなくて、オーレリアンは開けっぱなしだった寝室のドアを閉めて、客室に向かった。

 リリアーヌは、オーレリアンのことを裏切ったわけではない。
 最初から、彼女の心はシャルルのもとにあったのだ。
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