英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 デュノア公爵はリリアーヌをつまらなそうな目で見るが、彼の近くにいた大柄な男性がからりと笑った。

「なに、健康的で賢そうなお嬢さんではないか。……どうも、リリアーヌ嬢。儂のことは覚えているだろうか」
「もちろんでございます、リュパン元帥」

 見知った顔だったため、リリアーヌは公爵のときよりも少しだけ安心して挨拶をした。

 大柄な体躯といかつい顔面を持つリュパン元帥は、王国騎士団のトップに君臨する者だ。若い頃は様々な戦場でその名を馳せた猛将で、前線を退いてからもその豊富な経験と指導力、そして見た目に反しておおらかで気さくな性格から、多くの騎士たちから実の父のように慕われる元帥となった。

 シャルルも、「父上よりよほど、元帥の方が話しやすいよ」と言っており、そんなシャルルのことを元帥もかなり気に入っているようだ、とリリアーヌも聞いていた。

「半年前に、シャルル様のお付きで夜会に出席して以来でございます」
「おお、そうだな。シャルルから話は聞いていたが、あのとき初めてそなたに会って、これはシャルルが見初めるのも仕方ない才媛だと思ったものよ」

 元帥が朗らかな表情で言うように、半年前にリュパン元帥が騎士団関係者を対象に開いた夜会に、リリアーヌとオーレリアンがシャルルのお付きとして出席したのだ。

 あのときのリリアーヌは「僕はこういう場所が苦手なんだ」と拗ねるシャルルをなだめ、勝手にふらふらしようとするオーレリアンの首根っこを掴み……と、ばたばたしていたが、夜会開催者である元帥にも挨拶したのだった。

 そこでシャルルが咳払いをして、公爵も呆れたように目を細めた。

「おしゃべりはそこまででいい、元帥。……シャルル、説明を」
「はい、父上」

 父に促されたシャルルは、いつもより表情筋の活動に乏しい顔をリリアーヌに向けた。

「ここしばらく、僕は仕事を休んでいた。その間、君とオーレリアンに無理を言って申し訳なかった」
「滅相もございません。シャルル様もご多忙のことと思っておりましたし、オーレリアンもあなたのことをしきりに心配しておりました」
「そう言ってくれると、助かる。……僕は毎日、ここに通っていた。体調を崩された父上を、見舞うために」

 やはり、この寝室の有様を見てリリアーヌが想像したとおりだった。

 デュノア公爵とはこれが初対面だが、健康とは言えない顔つきをしている。先ほどから胸の辺りをさすっているので、肺に何かできているのかもしれない。
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