英雄は時を駆ける~エリート将軍の年上花嫁~
 ラチエ男爵が商人から回収した税を不当に扱っているという情報は、既に得ている。
 オーレリアンは男爵を始末する準備を進めており、早ければ今年中にラチエ男爵を裁判送りにしてリリアーヌを自由にしてやれる。

 そうして同時に、デュノア公爵を追いやる必要がある。ラチエ男爵と違い、デュノア公爵はこれといった罪を犯さない。
 だが、自分の血筋を守るためならば誰が血や涙を流そうと構わないという考え方の公爵を、このままにするつもりはない。

 デュノア公爵には、薬を盛る予定だ。
 既に公爵家の内部にも手を伸ばし、味方になる者を引き込んでいる。その者には、シャルルとリリアーヌの関係を探りつつ薬の量を調節するよう命じていた。

(リュパン元帥のパーティーに参加して、リリアーヌの顔を覚えてもらう。その上でラチエ男爵を追放して、デュノア公爵に毒を盛って体を弱らせる。その頃にはシャルルも、リリアーヌへの気持ちに気づいているはずだから……)

 オーレリアンの読みどおりに物事が動けば、来年の秋頃には決着がつく。

 公爵は愛息子に爵位を譲ることにこだわっているから、自分の死期が近づいたことを悟るとシャルルに襲爵――ひいては結婚を促すだろう。
 そのとき、シャルルはリリアーヌを相手に選ぶはず。その際にリリアーヌの身分の問題が解決するよう、リュパン元帥に動いてもらう。

 そうすれば、ようやく二人は一緒になれるはず。
 さらに来年の冬に待ち構える西部への遠征にリリアーヌを連れて行かせず、共和国軍の襲撃を防いでシャルルの采配により交渉が成功したとなれば……完璧だ。

 ……かつて(・・・)は、三人の未来が変わってしまった。

 もう、あんな未来を作ったりしない。
 そのためなら、何だってやる。

 シャルルとリリアーヌの幸せを阻害するものを排除するためなら、何を犠牲にしてでも――
< 91 / 93 >

この作品をシェア

pagetop