絵本の中のヤンデレ男子は、私のことを逃がす気がない。
絵本の世界へ、ようこそ

「ねぇ、君の名前は?」

 どこかで聞いたようなセリフを言って、男の子が手を差し伸べる。

 それは、昔読んだ絵本のワンシーン。

 いつも子供部屋で本を読んでいた私は、一人幻想の世界に浸るのが好きだった。

 綺麗な装丁の薄い絵本。

 その本の一番最初のページには、古びた木製の扉が描かれていて、主人公はこの扉を通って、煌びやかな世界に足を踏み入れる。

 扉を開けると、そこに広がるのは一面の花畑。

 赤や黄色、紫のかわいいお花と、木々が揺れる音。他にも、お菓子の家とか、お姫様が住んでいそうなガラスのお城とか、虹色の川とか。

 まさに、夢の世界だった。

 そして、そんな幻想的な世界で出会った男の子が、主人公に向けて言うのだ。

『君の名前は?』──と。


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