絵本の中のヤンデレ男子は、私のことを逃がす気がない。
そんなことを漠然と思い出しながら、私は目の前の扉を見つめた。
そこには、あの絵本と同じ扉があって、一面真っ暗なこの場所で、その扉だけは、くっきりと浮かび上がっていた。
私は、その扉を見るなり、手を伸ばした。
きっと、この扉の向こうには、一面の花畑が広がっている。そう、思ったから──
「─────ッ」
扉を開けて、一番最初に飛び込んできたのは眩しい光だった。暗い場所から、急に明るい場所に出た時みたいな
それから、ゆっくりと目を開けば、そこには、絵本で見たのと同じような一面の花畑が広がっていた。
香しい花の香り。
それに交じって、お砂糖の甘い匂いもした。
見れば、花畑から見える小高い丘の上に、お菓子の家があって、その反対側には、お姫様が住んでいそうなガラスお城も見えた。
(虹色の川もあるかも……)
私は、きょろきょろとあたりを見回し、虹色の川を探した。すると、花畑のずっとずっと奥の方に、キラキラと光る虹色の川が流れているのがみえた。
(やっぱり同じだ、あの絵本と──)
そう思った私は、走り出した。
気つけば、私の服は、あの絵本の主人公と同じような、ふわりとしたピンク色のエプロンドレスを着ていて、私は長い黒髪をなびかせながら"男の子"を探した。
ここが絵本の中なら、きっといると思った。
あの男の子が──
「あ!」
花畑を進むと、その先で男の子を見つけた。
黒いハーフパンツにサスペンダーを付けて、ハットを被った中学生くらいの男の子。まさに絵本の住人といいたくなるようなオシャレな風貌をしたその男の子は、私をみるなり、ニコリと笑う。