絵本の中のヤンデレ男子は、私のことを逃がす気がない。
小説の続きは、もう読めない
「んー、気持ち~」
一夜明けて、次の日の朝。
私は目を覚ますと、窓を開けて背伸びをする。朝の日差しを浴びながら、空を見あげれば、そこには、大きな虹がかかっていた。
その清々しい朝の光景に、私は昨日のことが夢じゃないと悟ると、部屋の中を移動して、昨日自分で描き出したドレッサーの前まで歩いた。
前にインテリア雑誌に載っていた猫足のオシャレなドレッサー。その鏡の前に座ると、私はキョロキョロと見回し櫛を探した。
「あ。そっか、櫛は出してなかったんだ」
昨日の部屋づくりで、大きな家具とかは一通り揃えたけど、小物は、さっぱりだったのを思い出した。
「えーと、出せるかな?」
私は、掌を上に向けて、櫛をイメージしながら目を瞑る。
するとその瞬間、私の手の上には、私がいつも使っている愛用の櫛とそっくりな櫛がポトッと落ちてきた。
「すごい。本当に、何でも叶っちゃう!」
ハルカは、これを魔法だと言っていた。
まるで、魔法使いにでもなったみたいと、私は軽く胸を弾ませると、上機嫌のまま髪を梳かし始めた。
腰まである黒髪を丁寧にときながら思い出すのは昨日のこと。
ハルカに「一緒に暮らそう」と言われた時は正直驚いたけど、ハルカは本当に優しいし、なにより紳士的で、不安に思うようなことは何一つなかった。
それに、夜、窓から外を見れば、そこは、ハルカが言った通り、昼間の明るい世界が嘘みたいなほど真っ暗で、少し不気味なくらいだった。
(もし、昨日ハルカにあっていなかったら、今頃は、狼に食べられて……)
「ガォーっ!!」
「きゃぁぁ!?」
瞬間、背後から唸り声が聞こえて、私は肩を弾ませた。振り向けば、エプロン姿のハルカが、私の背後に立っていた。
「アンナ、おはよう。びっくりした?」
「もう、脅かさないでよ、ハルカ」
「ごめん、ごめん。朝ごはんできたから、一緒に食べよう」
「え? ハルカが作ったの?」
「そうだよ。いつも魔法に頼ってばかりでは、ダメだからね」
そう言って微笑むハルカ。開け広げた扉の奥からは、美味しそうなスープと、香ばしいパンの香りが漂ってきた。
「そうだ。朝ごはん食べたら、でかけようか。アンナに、この世界を案内してあげる」
「ホント!」
美味しそうな朝食の香りと、ハルカの言葉に、思わずテンションが上がった。
ずっと好きだった絵本の中。行きたい場所は、たくさんあった。