絵本の中のヤンデレ男子は、私のことを逃がす気がない。
懐中時計が、止まる時
◇◆◇
「ねぇ、ハルカ。なにか用事でもあるの?」
お菓子の家で、二人まったりと寛いでいる最中、一人がけのソファーに腰かけて、懐中時計を見ているハルカに、私は声をかけた。
金色の光沢が美しい懐中時計。
それを、朝から眺めては、ハルカはとても嬉しそうにしていた。
「いや、用事なんてないよ」
「じゃぁ、なんで朝から時計ばっか見てるの?」
「あぁ、なんだか嬉しくて」
そう言ったハルカは、また愛おしそうに懐中時計を見つめる。
「この時計が止まったら、欲しかったものが手に入るんだ」
そういって、視線をあげたハルカは、まっすぐに私を見つめた。
「欲しかったものって?」
「内緒」
「えぇ!?」
だけど、その後、懐中時計を胸ポケットにしまったハルカは、"それ"を教えてはくれなくて、私は頬をふくらませた。
(時計が止まったらって……願かけでもしてるのかな?)
切れたら願いが叶うとか、そんな感じ?
そんなことを考えていると
「アンナ。お昼ごはん食べたら、また出かけようか。今日はどこにいきたい?」
ハルカが、そう問いかけてきて、私は表情を明るくする。
「じゃぁ、今日は”虹色の川”を渡ってみたい!」
キラキラと輝く虹色の川。
あの絵本も主人公も、男の子と動物たちと一緒に渡って、とても楽しそうにしていたのを覚えてる。
「あぁ、ごめん。あの川は、まだ渡れないんだ」
「え?」
だけど、そのあと予想外の言葉が返ってきて私は目を丸くした。
「え!? ダメなの?」
「うん。時間が決まってるんだ。6時44分になってからじゃないと渡れないよ」
6時44分??
なんだろう。その中途半端な時間?
時間が決まっているなら、もっと切りのいい時間にすればいいのに……と、私が首を傾げると、ハルカは
「アンナ、川を渡るのは、また今度にして、今日は見に行くだけにしよう!」
そう言ったハルカの言葉をしぶしぶ飲みこむと、私たちは、お昼を食べた後、虹色の川まで出かけることになった。