この関係には名前がない


あんなに迷惑なことをしてしまった翌土曜日の午後、近所のケーキ屋さんで焼き菓子を買って謝罪に行った。

『本当に申し訳ありませんでした!』

面倒そうでもドアを開けてくれた彼に深々と頭を下げる。

『もういいですよ、べつに何か被害があったわけでもないし』
『でも夜中に起こしてしまって』
『起きてたんで大丈夫です。それより気をつけた方がいいですよ、隣人が悪人って場合もあるんだし』
年下にしか見えない彼に、もっともな指摘をされてしまう。
『ですよね……こんなこと今までなかったんですけど……。本当に申し訳ありません』
『まあとりあえず何もなかったんだし、今回のことは大丈夫ですよ。俺も昨日は言葉がキツかったし。頭を上げてください』
しゅんとしている私を慰めるように言ってくれた。

『じゃああの、お隣さんということで、あらためて今後ともよろしくお願いします。木崎といいます』
『……真下です。よろしくお願いします』

真下さんが何か言いたげな顔をした気がしたけど、その場はそれでペコリと頭を下げて家に戻った。

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