悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 何度目かの眠りに落ちそうになったとき、ふと、耳の奥で誰かの声が聞こえた。

『先生!』

(この声は……)

『先生、どこにいるの?』
『先生、無事なんだよね……?』
『どこにいるんだ、先生!』
『早く帰ってきて、先生……』
『先生! 無事に帰ってきて、早く顔を見せてください!』

 生徒たちが、呼んでいる。

(起きないと)

 眠いし体はだるい。
 しかし、これから試験に挑む生徒たちが待っている。

 ディアナはぐっと唇を噛みしめて、無理矢理眠りに突き落とそうとしている力に抗った。

『どうして起きようとするんだ?』

 また、誰かの声が聞こえる。

 優しくて、こちらを安心させるような声。
 まるで、目覚めるのが悪だと言っているかのような声。

『もうちょっと寝ていて。そうしたら、君をあまり傷つけずに解放してあげられるから』

「っ……もう、傷つけているくせに……!」

 声を振り絞り、闇の中でもがく。

 誰かが、ため息を吐き出した。

『本当にいいの? 本当に、目を覚ますの?』

「当たり前っ! あの子たちが、待っているんだから……!」

『そっか、残念だ。……すごく残念だよ、イステル先生』

 そして、目の前が、明るくなった。
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