悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 残念ながら、試験開始時間ぎりぎりになってもディアナは見つからなかった。

 自分とはすれ違いになっていれば……というかすかな期待を抱いてとぼとぼと食堂に戻ったエルヴィンだが、そうはならなかったことはクラスメートたちの顔を見れば分かった。

「お疲れ、エルヴィン。ほら、飯」
「……悪い」

 リュディガーが投げて寄越したパンを受け取って豪快に食いちぎりながら、椅子に座る面々を見る。

 不幸中の幸いか、あれほど取り乱していたルッツとエーリカはまだ表情はこわばっているものの、かなり落ち着いた様子でハーブティーを飲んでいた。きっとツェツィーリエがブレンドしたものだろう。

「……レーネはどうした?」
「……ちょっと、吐いてしまってな。今トイレに行っている」

 リュディガーが言ったので、エルヴィンは無言で頷いた。

 レーネは成績や精神面では問題ないが、体が弱い。
 ディアナの助言のおかげで低血糖とやらの症状は出なくなったが、プレッシャーに当てられたりすると体調を崩しやすくなる。試験前に少しでもいいから、消化にいいものでも食べた方がよさそうだ。

「……先生は、見つからなかったのですね」
「……すまない」
「あなたが謝ることではないわ! あなたは、本当に頑張ってくれました。……先生のことは心配ですけれど、わたくしたちは目の前の問題を解決しなければなりません」
「……そう、よね。他の生徒たちもね、イステル先生がいないのは不安だけど頑張ろうって声を掛けてくれたのよ」

 エーリカが弱々しく微笑んで言い、ルッツもゆっくり頷いた。
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