悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「……みんなも、イステル先生のことを気にしているんだ。それにさっき様子を見に来てくれた先生たちからも、おまえたちはイステル先生のことが大好きだったから辛いだろうけど、まずは学生としての一番の役目をこなせ、って言われたんだ」
「そりゃそうだよな。いざ先生が無事に見つかったとしても、自分がいなくなっていたことが原因でオレたちの実力が発揮できなかったって聞いたら……それこそ、泣かせてしまうだろう」

 リュディガーに言われて、エルヴィンは頷いた。リュディガーに投げ渡された固めのパンもガシガシ噛んで飲み込み、ツェツィーリエの紅茶を呷る。

「……皆の言う通りだな。先生がこれまでにやってきてくれたことに報いるためにも……全力で試験に取り組もう。それから」
「それから?」
「……爆速で試験を終わらせたら、先生を探しに行く」

 口元をぐいっと拭って宣言するエルヴィンを、四人は目を瞬かせて見ていた。
 今ここにいる男が、半年前までは筋金入りのサボり魔として有名だったエルヴィン・シュナイトと同一人物だと、にわかには信じがたいくらいだった。

「……なんというか。あなた、先生と出会ってから本当に変わったのですね」
「あれだよ、あれ。恋は人を強くするってやつ?」
「ええっ、エルヴィン、先生のことをそういうふうに見てたの?」
「……こいつの阿呆妄想に付き合うんじゃない」

 エルヴィンは無愛想に言うが、その色白の頬はほんのりと赤い。

 そこで食堂の入り口の方で、レーネがちらちらと中をうかがっているのが見えた。

「おい、レーネ! 気分はどうだ!」
「え、ええと……吐いちゃったけど、元々あんまり食べてなかったから大丈夫!」
「それでは試験前に、ビスケットと紅茶だけでも胃に入れておきましょう」
「うん!」

 駆け寄ってくるレーネの顔色も、思ったよりも悪くなさそうだ。

 頼りになるディアナは、今ここにはいない。
 どこにいるのかも、何をしているのかも、無事なのかも分からない。

 だが、エルヴィンたちは自分たちがするべきことをするだけだ。
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