悪役教師は、平和な学校生活を送りたい

闇に染まる者

 不快な眠りから無理矢理目覚めたからか、はっとして体を起こした直後、脳天が叩き割られたかのような激しい頭痛に見舞われた。

「いっ……!」
「大丈夫かな、イステル先生」

 ズキンズキン痛む頭を抱えて唸っていると、誰かの大きな手がそっと後頭部に回った。
 ふわりと漂うのは、清潔な石けんの香り。

 ――だが。

「……来ないでっ!」

 すぐに腕を振り払い、足を縛られた状態でじりっと後退する。
 そしてディアナは、膝立ち状態で自分を見つめる男――校医のフェルディナントをにらみつけた。

 闇の中でディアナに語りかけてきた、あの優しい声。
 信じがたかったが……あれを聞いた時点で、自分を無理矢理眠らせようとしているのはフェルディナントだと分かった。

 フェルディナントはいつもの白衣でも教員用の制服でもない、黒のジャケットとスラックス姿だった。
 闇に溶け込むかのようなその衣装をほの暗い部屋の中で纏っているため、彼の頭部だけが闇に浮かんでいるかのように見えて不気味だ。

 ディアナに逃げられたフェルディナントは微笑み、宙ぶらりんになった手で頭を掻いた。

「困ったな、イステル先生。僕はただ、体調不良の先生を診てあげようと思っただけなのに……」
「……昨日の夕方に私に声を掛けて昏倒させたあなたが、よくそんなことを言えますね」

 目が覚めて、ようやく思い出した。

 昨日エルヴィンと別れた後、ディアナは職員室に行く途中の廊下でフェルディナントに会った。
 彼が、「明日の試験についてちょっと相談したいことがあるんだ」と言うので、彼について行き――空き教室に入ったところで背後から襲われたのだった。

(でも、アルノルト先生は聖属性魔法しか使えないはずだけど……)

 殴られたような衝撃も、何か薬物を嗅がされたような記憶もない。
 とんっと後ろから軽く押されたと思ったら、眠っていた。そんな感じだった。

 フェルディナントは目だけは笑ったまま、小さく首をかしげた。
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