悪役教師は、平和な学校生活を送りたい

一年補講クラス

 現在は秋休み中で、生徒たちは実家に帰っていたり旅行に行っていたりするので、彼らと関わることはなかった。

 そういうことでディアナは後期の授業が始まるまでの間、授業の準備をしたりフェルディナントの案内で学校を歩いたりする傍ら、今後の自分の振る舞い方について考えることにした。

(六人中三人を進級させられたら、正式採用。……でもそうすると、入学するヒロインと接点を持つことになってしまう)

 王都で日用品の買い出しをした帰り、紙袋を抱えて歩きながらディアナは思案する。

 もちろん、ヒロインをいじめなければいい話だし、それすら嫌なら去年の補講クラス担任のようにさっさと辞めてしまうという手もある。両親には申し訳ないが、クビになるよりは自主退職したいところだ。

(校長の言う通り三人以上を進級させてから、自主退職……もしくは、わざと生徒たちの指導の手を抜くか)

 そこまで考え、ぶんっと首を横に振る。

(私の馬鹿! 自分の勝手な都合で子どもたちを退学処分にさせるなんて、とんでもない!)

 となるとやはり、最低でも三人は進級できるように指導する必要がありそうだ。

(といっても、名簿を見る限り皆くせ者揃いで……うわっと!?)

 考え事をしていたら、すれ違いざまに通行人とぶつかりそうになった。まだ若いディアナは反射で踏ん張れたが、相手の方は「おおっ!?」と裏返った声を上げてよろめいた。

(危ない!)

 すぐに荷物を片腕で抱え空いた手を伸ばして腕を掴んだので、相手は転ばずに済んだ。

「す、すみません! 大丈夫ですか?」
「おお、すみませんな、お嬢さん」

 相手はフードを目深に被った老人だった。そろそろと腕を離したがもう大丈夫そうで、彼は「失礼しましたな」と言って去って行った。

(……考え事をするなら、部屋でゆっくりやった方がいいわね)

 ひとまず今日買いたかったものは買えたし、両親への手紙も送った。二人とも、娘が名門学校の講師になるということで誇らしい反面、出発の日の朝もそわそわしっぱなしだったのだ。

 そんな両親を心配させたくないので、手紙には補講クラスのことや正式採用の条件などについては一切記さず、前向きなことだけ書いておいた。

(前世は親孝行どころか祖父母孝行もできなかったから、今の家族は大事にしたいな……)
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