悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「どうして……どうしてそこまで、補講クラスを必要とするの!?」
「……」
「あの子たちに実力があることは、あなたも知っているはず! 補講クラスなんて必要ないって、皆も分かって――」
「それ、本気で言ってるの?」

 ひた、と喉元に当てられたのは、冷たい刃。

 いつの間にか魔法剣を抜いていたフェルディナントはその切っ先を、ディアナの喉に真っ直ぐ向けていた。

「補講クラスがなくなれば、皆が喜ぶ? ……それは違うね。スートニエ魔法学校の――ひいてはこのアドルマイア王国の発展には、補講クラスが必要なんだ」
「……そんなわけ――」
「君は半年前に来たばかりだから、うちの事情も何も知らないだろう? ……補講クラスに入りたくなければ、勉学に勤しめ。敗者になりたくなければ、相応の努力をしろ。……こうやって生徒たちを奮い立たせるためには、補講クラスが必要なんだよ。誰もが嫌う、落ちこぼれたちの巣窟。その存在が、生徒たちをより鍛え上げるんだ」

(……違う!)

 フェルディナントの言葉に、ディアナはぎりっと歯を噛みしめた。

「……そんなの、おかしい! そんなやり方が正しいわけがない!」
「正しいんだよ。……これまでにスートニエから輩出された、多くの著名人たち。皆は、補講クラスに入るまいと必死に努力をしてきたんだ」
「でもそれでは、『落ちこぼれを作ってもいい、落ちこぼれには何を言ってもいい』という考え方を植え付けてしまう。弱き者に手を差し伸べたり一緒に歩くための案を考えたりするのではなくて、弱者を踏みにじってもいいという思想を持つようになってしまう。それで本当に、国のためになるとでもいうの!?」
「……うるさいよ」

 ぐっ、と剣に力が込められ、かすかな痛みが走った。
 見えないが、皮膚の小さな血管が切られたのだと分かる。

「君は下級貴族出身だから、そういうことが言えるんだ。……国のことなんて考えず、ただ自分と自分の周りのことだけを考えていればいい。そういう人には、僕たちの思想は理解できないだろうね」
「ええ、できない。……でも、補講クラスの生徒たちに手を差し伸べる人や、考えを改める人は実際に増えている。もしここで私を脅しても……きっとそういう人たちがいつか、私の代わりに疑問を呈してくれる。本当にこのままでいいのか、ってね」
「……生徒や教師どもだけでなく、あの日和見校長まで君になびき始めたのは、本当に計算外だった。やはり……君のことはもっと早く、消しておくべきだったんだろうね」

 フェルディナントはどこか寂しそうに言うと、剣に魔力を込めた。

 聖属性は、魔法剣として使うことができないはずだ。
 だが――

(な、何この魔力……!?)

 火属性魔法なら赤く、氷属性魔法なら青白く光る魔法剣は今、周りの闇にも負けない漆黒のオーラを放っていた。
 この、近くで発動されるだけでじわっと脂汗がにじむような感覚は――去年の冬に体験したことがある。
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