悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「ど、どうして闇属性魔法を――」
「素晴らしいだろう? 聖属性なんて役立たずな力を持って生まれた僕でも、こうして新たな力を後天的に得ることができたんだ」

 そう言って闇の波動を放つ魔法剣を、フェルディナントは愛おしそうに見つめている。闇魔法なんて、普通だったら人間が手に入れられる属性ではないのに。

 急ぎ体を起こして氷の力を発動させようとしたが、フェルディナントの剣先からあふれた黒い鞭がするりとディアナの手首に巻き付いた途端、込めていた魔力が消えてしまった。

「えっ……!?」
「これが、闇属性の力だよ。君を襲った際に、すとんと気絶しただろう? ……闇は、光以外の全ての属性を吸収し、無効化する。灼熱の炎も、凍える氷も、鋭い風も、炸裂する雷も、頑強な土も――闇の前では、無力だ」

 そう、それはゲーム「ヒカリン」でも同じだった。

 魔物たちが有する、闇属性の力。あれを打ち払えるのは、レアな光属性のみ。
 だからこそ、光属性の力に目覚めたヒロインは平民でありながら多額の奨学金を与えられて魔法学校に入学できるのだ。

 フェルディナントは静かに笑い、闇の剣の先でディアナの肩に触れた。ただそれだけで体中の魔力が奪われるような感覚に陥り、吐き気がしてくる。

「アルノルト……先生……」
「本当は、こんなことはしたくなかったんだよ。でも、君が悪い。……君がもっと大人しくしていれば冬のグループ試験で、突貫で変異種を作ったりもしなかったんだよ」

(そ、それじゃああの象型魔物が変異種だったのも、アルノルト先生の……?)

 そんなことができるなんて、思ってもいなかった。
 くたっと体を弛緩させるディアナの体に、フェルディナントの腕が回った。

「ここは、そのグループ試験を行った森にある小屋だ。冬以外は訪れる人もいない、物置同然の場所でね。……ここでならちょっとくらい派手に魔法を使っても管理者にもばれないし、死体は埋めてしまえばいい。いつか、魔物が掘り出して喰いあさってくれるだろう」
「っ……」
「さようなら、イステル先生。……正直なところ、僕、一生懸命な君のこと、わりと好きだったよ。君がもっと大人しい女性だったら、僕が守ってあげたかったな」

 そう言うと同時に、フェルディナントは漆黒の剣を振り上げ――

「……先生!」

 そして、まぶしいばかりの光が視界に広がった。
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