悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 六人の趣味はまちまちで、全員が納得するような店を提案するのは非常に困難だった。
 だがディアナが頭を抱えていると、エルヴィンが「もういっそ、あんたが好きな店にすれば?」と一石を投じたことで、その後は一気に物事が進んでいった。

 この店は王都の繁華街から少し外れた場所にあり、学校からだと徒歩二十分くらいで到着できる。

(子どもの頃、私の誕生日に家族で行った、思い出の店なのよね……)

 そう教えると、あまり肉料理がないということで少々テンションが落ちていたリュディガーもキリッとした顔になり、「先生の思い出の店に行けるなんて、オレたちは多幸者だな」なんて言い始めたものだから、案の定ツェツィーリエに「単純頭」とからかわれていた。

 そうして七人で店に入り、円形のテーブルに着くことになったのだが。

「先生は、あたしたちの真ん中ね」
「先生に色目を使う男どもは、あっちに行きなさい!」
「うふふ。先生の隣でご飯、食べたかったんです!」
「あ、あの……僕は、どこに座れば?」
「ルッツはいい人だから、先生の近くでも許してあげるわ」
「なんでおまえが仕切ってるんだよ……」
「……」

 ツェツィーリエ主導で席が決まり、ディアナはレーネとエーリカの間で、正面にエルヴィンとリュディガーが並んで座ることになった。

「先生が目の前にいるのは眼福だけど、ちょっと遠いなぁー。手を握りたいのになー」
「隣にいるエルヴィンの手でも握ってなさいませ」
「いや、ねーよ。何が楽しくて男の手を揉まなきゃならねぇんだよ」
「それはこっちの台詞だ……」

 席に着いたときから既に賑やかだったが、料理が運ばれてくるとますます会話が弾む。

「まあ! このエビ、とってもおいしいわ!」
「うんうん! このとろっとしたソースがぴったりねぇ!」
「ルッツ、苦手なものがあるなら食べてやるぞ」
「あ、ありがとう、エルヴィン。でもせっかくだから、いろいろ食べてみるね」
「あら、リュディガー。あなたって意外と、きれいに食べるのね?」
「そりゃあ、先生が見ているんだからマナーも気にするっての」
「いつもは見苦しいぐらいがっつく男ですのにね……」
「うっせぇな、ツェツィーリエ。おまえだって、先生の前だからってお上品にチマチマ食べてんじゃねぇか」
「い、いいでしょう! 先生の前では完璧な自分を見せたいのですから!」
「あら、そんなこと言うけど、ツェリのマナーはいつも素敵よ」
「おほほ……ありがとう、エーリカ! あなたの目は確かね!」
「いや、俺の目が腐ってるような言い方すんなよ……」
「……ふふ」

 つい漏れたディアナの笑いを、六人は聞き逃さなかったようだ。

「ど、どうかしましたか、先生?」
「いいえ。……こうして皆が元気な姿を見られて、一緒に食事ができて……本当に、嬉しいなあって」

 学校の食堂でもたまにフェルディナントたちと一緒に食べることはあるが、どうしてもそれぞれのスケジュールの都合で早弁になったり少ししか食べなかったりする。
 そういうとき、賑やかな学生用食堂が少しうらやましい、と思っていたものだ。

 ディアナはジュースをすすり、皆に笑いかけた。

「こういう機会が、今まであまりなかったから。……すごく、嬉しいのです」
「先生……」
「……あ、あのですね、先生。わたくし、ちょっと前から先生にお願いしたいと思っていたことがありまして」

 そう切り出したのは、ツェツィーリエ。
 彼女らの飲み物にもアルコールは入っていないはずだが、その白い頬はほんのりと赤く染まっていた。

「その……今は学校外ですし、進級記念パーティーの場ですし、いいかな、と思いまして……」
「何かありますか? 私にできることならなるべく、叶えますが」
「……その。わたくしのこと……名前で呼んでくださらない?」
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