悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 補講クラスの六人の進級とディアナの正式採用が決まった今、彼女が気になっているのはゲームヒロインについてだ。

 思いがけず「ヒカリン」の攻略対象を一人退職させてしまったが、まだ人気ナンバーワンのリュディガーはいるし、来年度の入学生名簿を見ると王道攻略対象である第一王子の名前や同じく攻略対象であるヒロインの幼なじみの名前はあった。

(それなのに、光属性をひっさげて入学する女子生徒の情報は、どこにもない……!)

 これはまずいのでは、とディアナも薄々思っていた。

 この調子だと、ディアナがショボ悪役としてゲームのようにクビになる運命からは避けられそうだ。
 だが、だからといってヒロインの入学イベントまで潰したいわけではないし、せっかくだから魅力たっぷりのゲームヒロインの授業にも行きたいとさえ思っていた。

(アルノルト先生がクビになったこともそうだけど、私がゲームのシナリオにない行動を取ったことでヒロインの運命まで大きく変えてしまっていたら……)

 そこまでは、望んでいない。

 確かゲームヒロインの実家はそこまで裕福ではなくて、ヒロインは「家族のためになるなら……」という思いを胸に入学を決めるのだ。
 であれば、そんなけなげで家族思いなヒロインを早く探し出して、入学させてやるべきだ。

(ヒロインが去年の秋くらいに会うはずの予言者は、どこで何をしているの!? ちゃんと光属性の力を見いだしていれば、ヒロインの情報が魔法学校に行くはずなのに!)

 だが幸運なことに、手がかりゼロというわけではない。
 というのも、例の幼なじみ攻略対象の個人情報は名簿にばっちり載っていたので、彼を訪ねればヒロインの手がかりが分かるはずなのだ。

(確か、ヒロインと親ぐるみで仲よしの幼なじみ攻略対象は、このへんで暮らしているってことだったけど……)

 皆で食事をしたレストランから徒歩三十分くらいの場所にある、住宅街。
 このあたりは、それほど裕福ではない民たちがひっそりと暮らしている。幼なじみ攻略対象も、少ないが奨学金をもらって入学するタイプだったはずだ。

(もう暗いし、若い女の子は一人で歩かないかな……)

 それに、ディアナはヒロインの名前も見た目も分からない。

(ゲームではデフォルト名があったけれど、私はいつも自分で名前を付けていたから思い出せないし……見た目も、季節イベントやガチャで手に入れられるアイテムでいくらでも変えられたし……)

「ヒカリン」はヒロインの育成や恋愛イベント、攻略対象のスチル集めがメインだが、可愛いドレスやメイクでヒロインを飾るのも楽しみの一つだった。
 ガチャやイベントランキング報酬として入手できるドレスや髪型などはどれも可愛らしいものが多くて、気分によって付け替えられる。

(今日のところは幼なじみ攻略対象の家の場所だけ確認して、今度明るい時間に――)
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