悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「あっ」
学校で見た資料の内容を思い出しながら歩いていると、声がした。
顔を上げたディアナは――息を吞んだ。
正面にある民家からちょうど、桶を手にした少女が出てきたところだった。着ている服やエプロンはくたっとしており、顔にも化粧っ気はない。
だが――ディアナは、分かった。
(こ、これは……! ゲーム開始時に初期設定されている黒髪セミロングとぱっちり黒目、そして初期衣装の「町娘の服装」!)
ゲーム開始時のヒロインそのまんまの格好と見た目をした少女が、ぽかんとしてディアナを見ていた。確かにこんな暗い時間、いつもよりもおしゃれなドレスを着たディアナの姿は異様だろう。
「あ、あの。お貴族の方ですか。何かお困り事でしょうか……?」
どうやら彼女の目には、間違えて庶民の住宅街に迷い込んでしまった貴族の令嬢に見えたようだ。
普通なら平民が貴族においそれと声を掛けていいものではないが、礼法に詳しくなくてかつ、困っている人は見捨てられないというヒロインの性格にぴったり合致している。
(え、ええと! でもまだ、この子がヒロインと確定したわけでは……)
こほん、と咳払いをして、ディアナはバッグから扇子を出して優雅に広げた。
「こんばんは。……あなた、お名前は?」
「わ、私ですか? アンナ・リッターと申します」
(ああああ! 思い出した! ヒロインのデフォルト名、アンナ・リッターだ!)
すっかり忘れていたが、そのものズバリを言われてようやく思い出せた。
ということはやはり、この少女が「ヒカリン」のヒロインで――光属性の魔法の強力な才能を秘めている可能性が高い。
「まあ、よろしくね、アンナさん。……あなた、魔法は使えて?」
先ほどから質問が急すぎると自分でも分かっているが、焦っているので仕方ない。
案の定アンナは、少し困った顔になった。
「魔法……は、聖属性が少しだけです」
(そうそう、ヒロインは第一属性が光で第二属性が聖だから、ずっと自分は弱い聖属性魔法しか使えないと思い込んでいたのよね!)
「そうですか。……突然ですが、アンナさん。私はスートニエ魔法学校の魔法実技学の教師である、ディアナ・イステルと申します」
「……え、えええ! スートニエって……ブレンドンが来月入学する予定の……?」
(そうそう! 幼なじみ君と……あなたが入学する予定の!)
学校で見た資料の内容を思い出しながら歩いていると、声がした。
顔を上げたディアナは――息を吞んだ。
正面にある民家からちょうど、桶を手にした少女が出てきたところだった。着ている服やエプロンはくたっとしており、顔にも化粧っ気はない。
だが――ディアナは、分かった。
(こ、これは……! ゲーム開始時に初期設定されている黒髪セミロングとぱっちり黒目、そして初期衣装の「町娘の服装」!)
ゲーム開始時のヒロインそのまんまの格好と見た目をした少女が、ぽかんとしてディアナを見ていた。確かにこんな暗い時間、いつもよりもおしゃれなドレスを着たディアナの姿は異様だろう。
「あ、あの。お貴族の方ですか。何かお困り事でしょうか……?」
どうやら彼女の目には、間違えて庶民の住宅街に迷い込んでしまった貴族の令嬢に見えたようだ。
普通なら平民が貴族においそれと声を掛けていいものではないが、礼法に詳しくなくてかつ、困っている人は見捨てられないというヒロインの性格にぴったり合致している。
(え、ええと! でもまだ、この子がヒロインと確定したわけでは……)
こほん、と咳払いをして、ディアナはバッグから扇子を出して優雅に広げた。
「こんばんは。……あなた、お名前は?」
「わ、私ですか? アンナ・リッターと申します」
(ああああ! 思い出した! ヒロインのデフォルト名、アンナ・リッターだ!)
すっかり忘れていたが、そのものズバリを言われてようやく思い出せた。
ということはやはり、この少女が「ヒカリン」のヒロインで――光属性の魔法の強力な才能を秘めている可能性が高い。
「まあ、よろしくね、アンナさん。……あなた、魔法は使えて?」
先ほどから質問が急すぎると自分でも分かっているが、焦っているので仕方ない。
案の定アンナは、少し困った顔になった。
「魔法……は、聖属性が少しだけです」
(そうそう、ヒロインは第一属性が光で第二属性が聖だから、ずっと自分は弱い聖属性魔法しか使えないと思い込んでいたのよね!)
「そうですか。……突然ですが、アンナさん。私はスートニエ魔法学校の魔法実技学の教師である、ディアナ・イステルと申します」
「……え、えええ! スートニエって……ブレンドンが来月入学する予定の……?」
(そうそう! 幼なじみ君と……あなたが入学する予定の!)