悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 思い切って自己紹介をして身分証明証も見せると、アンナは驚いた様子で桶を取り落とした。

「え、ええと……ブレンドンの家にご用事でしたら、案内します!」
「あ、いいえ。私がお話ししたいのは……あなたですよ、アンナさん」
「私……?」
「あなた、一度魔法属性検査を受けてみません?」

 魔法属性検査とはその名の通り、魔法使いとしてどのような属性を持っているかを専用の機械で調べることである。

 魔法使いギルドの支部がある町には必ず置かれていて、生まれたばかりの子どもが検査を受けることで、どの属性の力をだいたいどれほど持っているか判断できる。

(アンナも出生時に受けたはずだけど、そのときはまだ光属性が目覚めていなかった……ってことになっていたはず)

 ディアナが笑顔で言うと、アンナは目を大きく見開いた。

「え、そ、そんな……あの、でも私、魔法学校に行けるほどの魔力じゃないんです。どうして私にそんなお話を……」
「それは……ええと、なんだかこう、あなたの顔を見ているとビビッときたのです!」
「ビビッと……?」
「え、ええ! 我が校にある魔法属性検査機で調べるだけなら無料ですし、もし才能が発覚すれば来年度から入学できるよう推薦しますよ」
「えっ……! 私、スートニエに行けるのですか……!?」

 それまでは怪訝そうだったアンナだが、一気に目を輝かせた。
 それほど裕福でない実家の助けになりたい彼女は、魔法学校に入学していい成績を収めることで立派な職に就きたいと考えているのだ。

 ……もちろん、恋愛ルートによっては就職どころか未来の王妃になったり大商家の奥様になったりできるのだが、今の彼女は働いて家族を養うことを大切にしているのだろう。

「基準値に満ちていれば、もちろん。その際は私が推薦者となりますよ」

(これくらいはしないと、ゲームのシナリオを変えた責任をとれないわよね……)

 そんなことをディアナが考えているとは露知らず、アンナは迷った末に頷いた。

「わ、分かりました。あの、お父さんとお母さんにも相談したいのですが……」
「もちろん、ご家族でゆっくり検討してくださいな。……こちら、私の名刺です」

 木でできた名刺を差し出すと、アンナはおそるおそる受け取ってくれた。
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