悪役教師は、平和な学校生活を送りたい

新しい春へ

 春は、出会いと別れの季節。
 そしてこの世界の四月はまさに、入学式のシーズンだった。

(こうして無事に、新学期を迎えられるなんて……)

 桜の花びら舞う校庭に立ち、ディアナはしみじみとスートニエ魔法学校の校舎を眺めていた。

 今日は一年生の入学式で、同時に二年生にとっては新学年始まりの日だ。

(補講クラスの六人は皆進級したし、ヒロインも入学できたみたいだし、私も……正式採用された)

 ディアナは四月一日から、スートニエ魔法学校の魔法実技教師として正式に採用された。
 やはり高齢だった魔法実技の教師が退職したので、ディアナがそこに入り――二年生の授業をメインに受け持つことになった。

(もう補講クラスはないから、あの六人だけの教室はなくなってしまったけれど……これから毎日でも、会えるものね)

「……あっ! おはようございます、イステル様!」

 しみじみと考えていると、背後から元気な声が聞こえてきた。

 入学式のために新一年生たちが早めに登校する中、真新しい制服に身を包んだアンナが走ってきていた。
 初期デフォルトの見た目ではあるが、やはりゲームヒロインだからかほぼノーメイクでも可愛らしい顔が際立っており、周りの男子生徒たちが思わず見とれているのが分かった。

 彼女はお人好しそうな顔の男子生徒――攻略対象である幼なじみのブレンドンを連れてディアナの前まで来て、ぴょこっとお辞儀をした。

「おはようございます、リッターさん。……これから入学式ですが、気持ちはどうですか?」
「最高です! これからたくさん勉強するんだって思うと、わくわくしてきます!」

 アンナは目をきらきら輝かせて言っている。

「イステル様……っと、これからは先生、って呼ばないといけませんね。私、イステル先生に推薦してもらったのだから頑張ります!」
「ええ、そうしてくださいな。勉強だけでなく、学校行事や恋なども充実した日々になることを願っていますよ」

 ディアナが心から言うと、アンナはきょとんとした後にくすくす笑い始めた。

「うふふ。学校行事はもちろん楽しみですけど……恋は、もう叶っています」
「……え?」
「私、ブレンドンと交際しているのです!」

 アンナが言い、隣に立つブレンドンも「実はそうなんです」と照れ笑いを浮かべている。

(……え? ……えええええええ!?)

「こっ……交際!?」
「えっ……いけなかったのでしょうか。学校要項には、生徒同士の交際禁止とはなかったのですが……」
「も、もちろん悪いわけではないですよ! ただ、少し驚いてしまって……」

 本当は少しどころではなくて仰天したくらいだが。

(もしかして……ヒロインの入学が決まるのが遅かったから、もう幼なじみ攻略対象とくっついてしまったの!?)

 そういえば、攻略対象の中でも幼なじみ・ブレンドンは最初から好感度が高めに設定されており、攻略が一番しやすいキャラだったはずだ。
 恋愛イベントでは「子どもの頃から好きだった」みたいな話を聞けたと思うので、冬の間にヒロインと幼なじみでくっついてしまったようだ。

(そ、それじゃあ学校では他のキャラとの恋愛イベントは……起こらないってこと……?)

「ええと……まああなた方なら大丈夫でしょうが、学生の本業は勉学ですので、清く正しい交際をすればと思います」
「は、はい……」
「えと、分かりました……」

 これだけで二人とも真っ赤になってもじもじ照れ始めたので、来年の新年祭パーティーなどで羽目を外すこともないだろう。
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