悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
補講クラス用の教室は、そこまで広くない。前世で赴任した中学校の教室よりも狭いくらいだ。
そこには三人掛けの長机が二つあり、朝の補講時間ということで既に五人の生徒が座っていた。
(一人いない。……予想していたけれど、前期全欠のエルヴィン・シュナイト君は早速欠席かな)
「みなさん、おはようございます。これから半年間、みなさんの担任をすることになったディアナ・イステルです」
『先生の笑顔、好きだよ』と前世の教え子たちが言ってくれたことを思い出しながら笑顔を努めて、生徒の顔を順に見る。
数名は緊張しているのかディアナに見られると視線を逸らしたが、他の生徒はじっとこちらを見てくれている。
「新任ですが、皆が二年生になれるように私も頑張りますので、よろしくお願いします」
「……新任、ねぇ」
ふう、とため息をついたのは、前側の長机の右端に座る――名簿で番号一番だった女子生徒。
真っ赤な髪は見事な縦ロールで、少しきつそうな印象のある金色の目を持つ、かなりの美少女だ。
(彼女が、侯爵家のツェツィーリエ・マルテ・ヴィンデルバンドさんね)
本名が長いし発音もしにくいが、きちんと生徒の名前は覚えている。
ツェツィーリエは机に頬杖をつき、じろじろとディアナを見てきた。
「……あなた、本当にわたくしたちの指導ができますの? わたくしたち、進級できなければ退学処分ですのよ?」
「……はい、尽力します」
「尽力したとしても結果が出なければ意味がないわ。……あなたがわたくしたちの未来を背負っているということの意味、よく考えなさいませ」
「……あのー、ツェリさん。先生も頑張ってくれるんだろうから、そこまで言わなくていいんじゃないかなぁ」
おずおずと言ったのは、ツェツィーリエとは対称的な位置にいる濃い緑色のボブヘアーの女子生徒だ。
彼女が、授業中に菓子を食べるということで厳重注意されているレーネ・トンベックだろう。
「先生だって初めてここに来たらしいし、きっと緊張してるし……」
「関係ありません! ……わたくしこそ、このクラスに新任教師があてがわれたことに不安しかないのですからね!」
「おいおい、そこまで言うなよツェツィーリエ。そういうのは、校長にでも言えっての」
かっとなったツェツィーリエに言い返したのは、レーネの隣に座る青年。
毛先に癖のある長めの銀色の髪に、色っぽく目尻の垂れた赤茶色の目。間違いなく、彼こそがゲーム攻略対象のリュディガー・ベイルだ。
このクラスの生徒の中でも大柄で大人びた雰囲気の彼が言ったからか、ツェツィーリエの机の反対側に座る青色おかっぱ髪の男子生徒も「そ、そうだよ」と同意を示す。
「あの、あの、もっと、仲よくしようよ。僕たち、仲間……なんだし……」
「仲間ですって!? このクラスに入れられたこと自体が不幸ですのに、お友だち感覚で付き合えとでも言うのですか、ルッツ・ライトマイヤー!」
「そ、そうじゃないけど……ひいぃ……! 睨まないでぇぇぇぇ!」
「ほら、そのへんにしないと先生が困っているわ」
混沌とし始めた皆に声を掛けたのは、ツェツィーリエとルッツの間に座るほわんとした雰囲気の女子生徒だ。
彼女が、魔法実技以外の成績で赤点常連のエーリカ・ブラウアーだろう。
「あたしは、ルッツの意見に賛成かなぁ。ほら、冬の試験はグループでやるから、あたしたちみんなが協力しないといけないでしょ?」
「それは、そうですけれど……!」
「ツェリはとっても頭がよくて頑張り屋さんだから、あたしたちも足を引っ張りたくないの。だから、仲間として協力させてね?」
エーリカがほんわかと笑って言うと、それまではかっかとしていたツェツィーリエは顔を赤らめて、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
そこには三人掛けの長机が二つあり、朝の補講時間ということで既に五人の生徒が座っていた。
(一人いない。……予想していたけれど、前期全欠のエルヴィン・シュナイト君は早速欠席かな)
「みなさん、おはようございます。これから半年間、みなさんの担任をすることになったディアナ・イステルです」
『先生の笑顔、好きだよ』と前世の教え子たちが言ってくれたことを思い出しながら笑顔を努めて、生徒の顔を順に見る。
数名は緊張しているのかディアナに見られると視線を逸らしたが、他の生徒はじっとこちらを見てくれている。
「新任ですが、皆が二年生になれるように私も頑張りますので、よろしくお願いします」
「……新任、ねぇ」
ふう、とため息をついたのは、前側の長机の右端に座る――名簿で番号一番だった女子生徒。
真っ赤な髪は見事な縦ロールで、少しきつそうな印象のある金色の目を持つ、かなりの美少女だ。
(彼女が、侯爵家のツェツィーリエ・マルテ・ヴィンデルバンドさんね)
本名が長いし発音もしにくいが、きちんと生徒の名前は覚えている。
ツェツィーリエは机に頬杖をつき、じろじろとディアナを見てきた。
「……あなた、本当にわたくしたちの指導ができますの? わたくしたち、進級できなければ退学処分ですのよ?」
「……はい、尽力します」
「尽力したとしても結果が出なければ意味がないわ。……あなたがわたくしたちの未来を背負っているということの意味、よく考えなさいませ」
「……あのー、ツェリさん。先生も頑張ってくれるんだろうから、そこまで言わなくていいんじゃないかなぁ」
おずおずと言ったのは、ツェツィーリエとは対称的な位置にいる濃い緑色のボブヘアーの女子生徒だ。
彼女が、授業中に菓子を食べるということで厳重注意されているレーネ・トンベックだろう。
「先生だって初めてここに来たらしいし、きっと緊張してるし……」
「関係ありません! ……わたくしこそ、このクラスに新任教師があてがわれたことに不安しかないのですからね!」
「おいおい、そこまで言うなよツェツィーリエ。そういうのは、校長にでも言えっての」
かっとなったツェツィーリエに言い返したのは、レーネの隣に座る青年。
毛先に癖のある長めの銀色の髪に、色っぽく目尻の垂れた赤茶色の目。間違いなく、彼こそがゲーム攻略対象のリュディガー・ベイルだ。
このクラスの生徒の中でも大柄で大人びた雰囲気の彼が言ったからか、ツェツィーリエの机の反対側に座る青色おかっぱ髪の男子生徒も「そ、そうだよ」と同意を示す。
「あの、あの、もっと、仲よくしようよ。僕たち、仲間……なんだし……」
「仲間ですって!? このクラスに入れられたこと自体が不幸ですのに、お友だち感覚で付き合えとでも言うのですか、ルッツ・ライトマイヤー!」
「そ、そうじゃないけど……ひいぃ……! 睨まないでぇぇぇぇ!」
「ほら、そのへんにしないと先生が困っているわ」
混沌とし始めた皆に声を掛けたのは、ツェツィーリエとルッツの間に座るほわんとした雰囲気の女子生徒だ。
彼女が、魔法実技以外の成績で赤点常連のエーリカ・ブラウアーだろう。
「あたしは、ルッツの意見に賛成かなぁ。ほら、冬の試験はグループでやるから、あたしたちみんなが協力しないといけないでしょ?」
「それは、そうですけれど……!」
「ツェリはとっても頭がよくて頑張り屋さんだから、あたしたちも足を引っ張りたくないの。だから、仲間として協力させてね?」
エーリカがほんわかと笑って言うと、それまではかっかとしていたツェツィーリエは顔を赤らめて、ぷいっとそっぽを向いてしまった。