悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
(うーん……これは、予想以上に大変そうね)

 フェルディナントから、「もし生徒たちが揉めそうになっても、まずは子どもたちで解決させるようにしたらいいよ」と言われたので見守っていたのだが、なかなか骨の折れそうなメンバーだ。

 先ほどエーリカが言った通り、十二月には冬のグループ試験というものがある。進級試験とは違うが、ここで補講クラスの生徒の実力を教師たちに見せるというのがディアナのひとまずの目標である。

「……みなさん、私の指導に不安があるのはもっともです」

 思い切ってディアナが言うと、ツェツィーリエはじろっと横目でこちらを見て、リュディガーは色気のある目元をわずかにつり上げたようだ。

「というのも、私自身不安でいっぱいなのです。……でも、今の皆が持っている力を少しでも伸ばせるよう、努力します。そして私も皆からたくさんのことを学びたいと思っていますので、何か気になることなどがあれば遠慮なく言ってくれれば助かります」
「……へぇ。新任の先生はずいぶん、低姿勢なんだな?」

 面白がるように言うのは、リュディガー。
 有名声優がキャラクターボイスを務めていた彼の声はやはり艶があり、色っぽい。日本のあらゆる女性たちを恋に落としたという人気攻略対象の実力は伊達ではないようだ。

「……ええ。自分について偽りたくはないので」
「……だってよ、ツェツィーリエ。先生の方からこう言っているんだから、おまえもプリプリすんなよ」
「うるさいわね、リュディガー・ベイル!」

 くわっとリュディガーに噛みつくツェツィーリエだが、先ほどよりは態度が緩くなった気がする。

(……この五人はいいとして)

「早速、後期の授業計画について説明をしたいのですが……あの、もう一人の生徒は?」
「あ、エルヴィン君のことなら、授業には来ませんよ」

 あっさりと言ったのは、レーネ。既に彼女はバッグから出した焼き菓子をもぐもぐとしているが、あえてそれには突っ込まないことにした。

「エルヴィン・シュナイト君は、前期試験にも出席していないようですが……授業にも参加しないのですか」
「うーん……私の記憶では、前期の最初に一瞬姿を見たかなぁ、ってくらいです」
「ぼ、僕もエルヴィンのことは、あんまり……。あの、いつもどこかで昼寝してるそうなんです……」
「昼寝……」

 思わず反芻すると、ルッツは「ひぃっ!? 僕のせいじゃないですよ!?」と震え始めたので、彼をなだめつつ考える。

(初日から欠席……。これが中学校なら、職員室の先生に応援をお願いしたんだけど……)

 エルヴィン本人が自分の意思でサボっているのなら、探しに行っても無駄だろう。

(……それでも)
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