悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「……あ、そうだ。先生は新任だし、みんなでエルヴィンを探しながら校内探検でもしないか?」

 どうしようかと悩むディアナに助け船を出したのは、リュディガーだった。
 だが、すぐさま振り返ったツェツィーリエが彼に反論する。

「反対です! どうしてあんなサボり魔のためにわたくしたちの時間を割かなければならないのですか!?」
「そりゃそうだけど、ほら、これもコミュニケーションの一環じゃねぇの? 先生だって、一度もエルヴィンの顔を見ないのは不安だろうし」
「いいでしょう、あんなやる気なし男。……先生、エルヴィンなんて放っておいて授業を始めてくださいな」
「……それは」
「先生。……あなた、わたくしたちを進級させる気、ありますの?」

 言葉に詰まったディアナを見るツェツィーリエの目が、冷たさを孕んだ。

 ここでディアナがどう反応するかで、ツェツィーリエが今後ディアナに従うか否かが決まる。
 そんな緊張が感じられたのかリュディガーやエーリカも黙っているし、プレッシャーに弱いらしいルッツは白目を剥いていた。

 五対の目――一名気絶しているので、実際には四対――に見つめられて緊張で手のひらに冷たい汗を掻いていることを、ディアナはグローブ越しに感じていた。

(私、は……)

 前世の記憶を取り戻してからは、これからどうしようと迷っていた。
 だが、秋休みの間にディアナは決めた。

 ディアナは、誰一人として見捨てたくない。最低三人進級ではなくて……できるなら、皆を二年生に上がらせたい。

 その中には当然、筋金入りのサボり魔であるというエルヴィンも入っている。
 だが、エルヴィンを優先させてツェツィーリエたちの指導を怠るのは本末転倒だ。

 ディアナは悩み、緊張でバクバクと脈打つ心臓の音を聞きながら――

(……ごめんなさい、エルヴィン・シュナイト君)

 まだ会ったこともない生徒に、心の中で謝罪をした。

「……もちろんです。授業を、始めましょう」
「……ええ、そうしてくださいな」

 ディアナの言葉に、ツェツィーリエはほっとした様子で頷いた。心なしか、彼女の表情も少しだけ明るくなったようだ。

 ディアナは皆に半年間の授業の予定を説明しながらも――早速生徒の一人を見捨ててしまったことへの罪悪感が胸から消えなかった。
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