悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 フェルディナントの助言を受けたディアナは階段を上がり、教室棟にあるバルコニーを見て回った。

(……普通に考えて、休憩時間に生徒たちが談笑するような場所でサボらないわよね。となると、日当たりはいいけれど狭い隠れスポットとか……)

 そう思いながら、四階建ての校舎にあるバルコニーを順に見て――

(あ、あの人かも!)

 あまり運動をしないため足がガクガクしてきた頃、ディアナは小さめのベランダで寝転がる人物を発見した。

「失礼。あなた、エルヴィン・シュナイト君でしょうか?」
「……ん、誰?」

 呼びかけると、その人はごろんと寝返りを打ってディアナを見てきた。

 リュディガーたちとおそろいの男子制服姿で、赤金色の髪は寝ていたからか元々なのか少し毛先がはねている。薄茶色の目は眠そうでどことなくけだるげな雰囲気だが、リュディガーとは全く別の方向での美男子だった。
 きっと優しく微笑めば王子様系のイケメンになり、女子生徒たちを虜にできるだろう。

 ディアナはそんな彼の脇にしゃがんだ。

「私は一年補講クラスの担任になった、ディアナ・イステルです」
「……そう、ですか。どうも」
「ええ、どうも。……さっきの補講時間にあなたの姿がなかったので、探しに来ました」
「そうですか、それはご苦労様です。じゃ、さよなら」
「お待ちなさい」

 言いながら背中を向けようとするエルヴィンに、ディアナは根気強く声を掛ける。

「あなた、前期の授業もほぼ全て欠席でしょう。試験も受けていないようですし……その理由を伺っても?」
「……。……理由、ね」

 エルヴィンは仰向けになると、ディアナを見上げる格好で面倒くさそうにため息をついた。

「……単純です。俺、進級する気ないんです」
「ないのですか? せっかく入学したのに?」
「俺の意思で入学したんじゃないです。だから、このままサボり続けて退学処分を受けるつもりなんですよ」

(……なるほど。スートニエ(ここ)に来たくて来たわけではないのね……)

 それは確かに、サボってさっさと退学処分を受けたいと思う気持ちも分かる。
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