悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「ヒカリン」とは、前世の自分が大学生時代にプレイしていたソーシャルゲーム――略称ソシャゲだ。
 正式タイトルは「光の乙女の輪舞曲」で、平民出身の主人公が光属性魔法の能力を持っていたことが発覚したため、スートニエ魔法学校に入学する。そこで過ごす二年間で魔法の腕前を磨いたり、友人と仲よくなったり、攻略対象と恋愛をしたり……といった青春時代を送ることになる。

 これはソシャゲなので、本編とは別の季節イベントやサイドストーリーが配信されていた。イベントはランキング形式ではないので自分のペースで進められるし、恋愛イベントは胸キュンものが勢揃い。そういうことで、仕事を始めるまではそれなりにやりこみ、課金してガチャをぶん回していた。

 ゲームをしなくなって久しいので内容は忘れかけているが、「スートニエ魔法学校」という名前は印象的だったし、物語の舞台がアドルマイア王国だったのも間違いない。

 まさか死後に、かつてプレイしたソシャゲの世界に転生するなんて……というのも単純に驚いたが、驚くだけでは済ませられない。

(ディアナ・イステルっていうのは確か……サブキャラにいたよね)

 最初はなかなか思い出せなかったが、療養ということで部屋で休んでいる数日間に必死に記憶の引き出しを開けて、前世プレイした「ヒカリン」の内容をノートに書き出した。

 ディアナ・イステル――それは、「ヒカリン」の序盤に登場する悪役だった。
 悪役といってもたいしたことのない小物で、入学したヒロインにことあるごとに突っかかってきて、意地悪ばかりしてくる。そうして一年生前期試験で特定の生徒に点数をかさ増ししようとした罪でクビになるという、救いようのないキャラだった。

(立ち絵もあったはずだけど、何回も見たイベントはスキップ機能で飛ばしてしまったから、あまり覚えていない……)

 だがなんとなく、いつもしかめっ面でヒロインをいじめてくる厚化粧女性教師だった気がする。

(ということは私、スートニエ魔法学校でヒロインをいじめないといけないの……?)
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