悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 ふう、と息をつき、ディアナはまだリュディガーと口論をしているツェツィーリエの肩に触れた。

「ヴィンデルバンドさん。一旦下がりましょう」
「いいえ、わたくしはまだできます!」
「そうではありません。……先ほどベイル君も言っていたように、今はライトマイヤー君の番ですよ」

 ディアナがはっきりと言うと、ツェツィーリエの瞳に不服そうな色が浮かんだ。
 それに一瞬ドキッとしたが、彼女は無表情になるとディアナの手を振り払い、木陰に座っているエーリカのところに行ってしまった。

(……間違いなく、ヴィンデルバンドさんからの好感度が下がった……)

 正しい指摘をしたはずだが、精進しようと焦るツェツィーリエからするとディアナの介入は邪魔でしかなかっただろう。
 だが、一度出した指示は撤回できないのだから、今やるべきことをしなければ。

「……さあ、ライトマイヤー君。あの的に当ててみましょう。あなたは土属性なので、つぶてを飛ばして……」
「……あ、あの、あの。僕、いいです。遠慮します……」
「えっ、どうして?」

 今は彼の番だから、遠慮なくすればいいのに。そう思い、ディアナは手のひらから小さな氷の粒を出して的に向かって投げつけてみせた。
 ディアナは氷属性だが、土属性のルッツも同じ要領でつぶてを飛ばせるはずだ。

 だがルッツは青い顔でぷるぷる震えながら、木陰の方をちらちら見ていた。

「だ、だって、ツェツィーリエさんが怒りますよ……」
「なんでですか。今はあなたの番なのですよ」
「でも、今はよくても、後で睨まれたり……ひいぃ……!」
「あ、こら!」

 限界が来たのか、ルッツは逃げ出してしまった。いつもビクビクしている彼だが、逃げ足はとてつもなく速い。

 あっという間に訓練場にいるのはディアナとリュディガー、そしてレーネだけになったが、レーネは座り込んで菓子を食べている。マイペースなのか、ここまでのドタバタを前にしても我が道を突き進んでいた。
< 20 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop