悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「……君が担任するようになって半月経ったけれど、クラスはどんな感じかな?」
「……あまり、いいとは言えません」

 魔法実技ではリュディガーは味方でいてくれるし、レーネやエーリカも中立派だ。だがとにかくツェツィーリエへの声掛けに困るし、かと思ったらルッツが真っ青な顔になって逃げてしまう。

 そして座学となると逆に、勉強が苦手なエーリカが立ち止まってしまう。リュディガーやツェツィーリエは放っておいてもよくできるが、だからといって誰かに教えるのは苦手らしい。
 そして座学が得意なルッツがたまにツェツィーリエよりも早く問題が解けたりすると、「ツェツィーリエさんを怒らせる……!」と怯えてしまう。そしてレーネはやはり気がつけば何かを食べているし、エルヴィンも現れない。

 ディアナのつぶやきに、フェルディナントは「そうか」と優しく相づちを打った。「僕たちも、イステル先生の頑張りはよく分かっているよ。毎日遅くまで自室で授業の準備をしているよね?」
「……でも、努力が結果につながらなければ意味がないんですよね」

(……そう。それこそ、初日にヴィンデルバンドさんに言われたように)

 デスクに視線を向ける。そこには、生徒六人の名簿と授業計画表や教材が散らばっていた。

 今日の夕方の補講時間では、皆で魔法応用授業の復習をした。この教科で生徒が教わるのは、魔法剣という武器の扱い方だ。

 魔法剣はファンタジー小説に出てくる魔法の杖に近い扱いで、刀身に魔力を込めて魔物と戦うだけでなく、自分の魔力を安定させてより正確な魔法を放つための道具にもなる。

 魔法剣はたいてい、十八歳の成人を迎えた次の年度の四月に自分用のものをあつらえることになる。
 魔法剣は国民ならば誰でも一振り持てるようになっており、最低価格のものならば貧民層でも、申請すれば購入できる。もちろん、貴族たちはより上質なものを自分で注文する。ディアナも、三年前に両親に買ってもらった愛剣を腰に提げている。

 スートニエ魔法学校では魔法剣の扱いを学ぶ魔法応用の授業があるので、生徒たちは特別に入学時一振りずつ学校から借りている。
 この扱いには当然運動神経などがものを言い、補講クラスだとリュディガーがぶっちぎりで優秀だった。侯爵令嬢であるツェツィーリエも非力だが魔法剣の扱いはうまくて、騎士の娘であるレーネも剣術は得意だと言っていた。

 ここで困ったのは、臆病なルッツとおっとりしているエーリカだった。ルッツは剣を握らせるので精一杯だし、エーリカは不器用なのか剣の構えの形からして不安しかない。

 ディアナとしては魔法剣が苦手な二人にじっくり教えたかったのだが、ここで珍しくツェツィーリエとレーネが「もっと先をやりたい」と意見を一致させてしまった。
 そこにリュディガーも交えて口論になり、最後にはツェツィーリエの「愚図に付き合っていられないわ!」発言によりルッツとエーリカが泣いてしまった。

(あれにはさすがにヴィンデルバンドさんも後悔していたけれど、その後彼女も泣き出してしまって、どうにもならなくなったのよね……)

 ルッツはリュディガーが、女子二人はディアナとレーネが慰めることでなんとかなったが、帰り際も五人の空気は気まずかった。

 よかれと思って計画した授業なのに、三人を泣かせる結果に終わってしまった。
 そう思うと目尻がじわっと熱くなり、慌ててハンカチで目元を押さえた。
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