悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「……あ、はは。だめですね、こんな、うまくいかないからって……」
「そんなことないよ」

 優しい声と共に、頭の上にそっと大きな手が乗った。ふわりと漂うのは、大人の男性が好んで身につけるコロンの香り。

「君はよく頑張っているし、僕は君の方針が間違っているとも思わない。……もっと胸を張っていればいいよ」
「……でも、それだけではだめだったんです……」
「うーん……そうだな。まずは、生徒たち一人一人をもっとよく見てみたらどうかな?」

 フェルディナントの声に、顔を上げ――ようとしたが、大きな手によって阻止された。
 顔を上げなくていいからこの格好のままで聞け、ということか。

「ほら、君はちょっと前に、サボり魔神のエルヴィン・シュナイト君から事情を聞き出したんだろう?」
「え、ええ。といっても、自分の意思で退学処分を受ける気だということくらいですが……」
「うん、そうそう、それ。……君はちゃんと、生徒に向き合えただろう? それと同じように、後の五人にも接してみればいいんじゃないかな」

 フェルディナントの言葉に、ディアナははっと息を吞んだ。

(生徒に、向き合う……)

 サボり魔、女性がらみの素行、臆病、コントロール不足、菓子食い、勉強苦手。
 個性に満ちた――少々満ちすぎているくらいの、六人の生徒たち。

(……私、まだ皆のことをちゃんと知れていない……)

 エルヴィンのサボりの理由がなんとなく分かったような、「なぜこの子はこうなのか」という問いかけを、十分にしていなかった。

 急に目の前が晴れたような気持ちになって顔を上げると、今度こそ阻止せずにフェルディナントは笑った。

「何かヒント、得られた?」
「……はい! ……あの、アルノルト先生。私、やりたいことができました」
「へぇ、何かな?」

 どこか楽しそうなフェルディナントに、ディアナは言った。

「教育相談です!」
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