悪役教師は、平和な学校生活を送りたい

教育相談という名のお茶会

 前世に勤めていた中学校では、定期的に教育相談を行っていた。
 もちろん、多感な時期にある中学生が素直に悩みを相談するわけでもなく、問題の早期発見に必ずつながるとは限らない。

 だが、ここで重要なのは教師と生徒の間につながりを持っておくこと。
 生徒から話すことがないからといって教育相談そのものをカットしたりせず、一対一で向き合う時間を確保するように、と当時の指導教員から言われていた。

 ということで。

「……どうしてわたくしが、あなたとお茶をしなければならないのですか?」
「まあ、そう言わずに」

 今、ディアナは校舎三階にあるバルコニーにてお茶会を開いていた。招待客は、不服そうな顔のツェツィーリエのみ。

 ディアナがフェルディナントに提案したのは、生徒たち一人一人とゆっくり話す時間をもうけること。
 だが「教育相談」という単語の意味はいまいちピンとこなかったようで、フェルディナントからは「生徒とのお茶会という名目にすれば、礼法の授業にもなるので学校から許可が下りる」とアドバイスしてもらった。

 そういうことで放課後のバルコニーを堂々と貸し切り、お茶会を開くことにしたのだった。
 お茶を飲むと言うことならば、一番気難しいツェツィーリエも貴族令嬢として断れないだろう、ということも読んでいる。

 招待されたツェツィーリエはずっとむっつりとしているが、ディアナが選んだお気に入りの茶葉で茶を淹れると、さっと目の色を変えた。

「……まあ、これはランベル産の茶葉! あなた、いい趣味をしていますのね」
「ありがとうございます。……これにちょっとだけミルクを入れるのがおいしいんですよね」
「まあ! その飲み方を知っているだなんて、あなた結構……」

 ついはしゃぎすぎたと気づいたのか、ツェツィーリエは頬を赤く染めて黙ってしまった。だが、ディアナが「ミルクはいかが?」と問うと、黙って頷いた。

 季節は秋で、日が沈むまでならばバルコニーで快適に過ごせる。
 淹れたばかりの紅茶は温かくて、ほんの少しミルクを垂らしたそれを飲むと思わずほうっとため息が漏れてしまった。

「おいし……」
「……先生、顔がだらしなく緩んでいますよ」
「あら、ごめんなさい。でも、おいしいものを味わうとつい、顔全体でおいしいと言いたくなってしまうのですよ」
「……変な人」

 ツェツィーリエの言葉は容赦ないが、それでも口調は穏やかだった。
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