悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 彼女はディアナよりずっと洗練された所作で茶を一口飲むと、「それで?」と問うてきた。

「今日はわざわざわたくしを呼び出して、何のご用でして?」
「そうですね……特に何かを話したいわけではないですね」
「え? ないのに呼んだのですか?」
「ええ。ただ、こうしてヴィンデルバンドさんと一対一でゆっくり話す機会がほしいな、と思ったので。あなたが何か喋りたいことや相談したいこととかがあるのなら、聞きたいなと思いまして」
「……。……わたくしだけと?」
「ええ。あ、もちろんこの後で他の五人とも同じようにお茶会をしますから」
「……。……そう」

 ツェツィーリエ一人に問題があるわけではない、という意味を込めて言ったのだが、逆に少しだけ残念そうな顔をされた。

「……冬のグループ試験、だんだん近づいてきましたね」
「それは違います。試験の日が近づくのではなくて、わたくしたちが当日に向かって少しずつ進んでいるのです」
「ああ、なるほど。確かにそっちの解釈の方が納得ですね!」
「……」

 ツェツィーリエは怪訝そうな顔をしてしばらくの間黙って紅茶を飲んでいたが、やがてつと視線を上げた。

「……先生。あなたは……わたくしのことが、扱いにくいと思っているのではないですか?」
「思いませんよ」
「嘘おっしゃい。だって、わたくし――」
「私はヴィンデルバンドさんたちを扱う(・・)つもりはありません。……あなたたちは一人の生徒なのですから、どう進むかはあなたたち次第ですもの」

 ディアナがはっきりと言うと、ツェツィーリエの黄金色の瞳が揺れた。

 カップを置いて、ディアナは表情の固まったツェツィーリエに微笑みかけた。

「私から見たあなたは、ちょっと意地っ張りで気難しいところもあるけれど前向きな、とても真面目な生徒です。だから、あなたがあなたらしく進みたい方向に行けばいいと思っています」
「……嘘よ」
「残念ながら、私はこんなにハイレベルな嘘をつけるほど才能があるわけではないので」
「なによ、それ。あなた、変よ」

 口では貶しながらも、そう言うツェツィーリエの表情は穏やかだった。「おかわりはいかが?」と問うと、彼女は上品に微笑んで頷いた。
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