悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「試験に向けて焦る気持ちはよく分かります。でも、それで空回りしていそうなら……ちょっとやり方を変えてみるのも手だと思いませんか?」
「……。……そう、ね。わたくし、焦っていたのね……」

 そうつぶやくツェツィーリエの顔は、どこかぼんやりしている。
 もしかすると、自分で自分を追い詰め焦らせていることに、今初めて気づいたのかもしれない。

「冬のグループ試験では皆で協力して魔物を倒すことになりますが……あなたは、どんな戦い方をしてみたいですか?」
「わたくし? わたくしはもちろん、誰よりも先に攻撃を仕掛けて魔物を叩き潰したいわ」

 ある意味予想通りの回答で、ディアナは微笑んだ。

「ええ、それがあなたらしいですね。でも、今回はグループ課題です。六人で協力するとなったら、あなたには何ができますか?」
「……。……わたくしが焦って攻撃したら、レーネやエーリカに当たるかもしれない。それくらいなら……癪だけれどだいたいのことはリュディガーたちに任せて、わたくしは正確な一撃に賭けてみるわ」
「ええ、そういう戦い方もありですね。ひょっとすれば、あなたが魔物にとどめを刺せるかもしれませんよ」
「……そうよね。あのリュディガーに吠え面を掻かせることもできるわよね!」

 ツェツィーリエはふふっと笑うとぬるくなった紅茶をぐいっと呷り、長い縦ロールを揺らして頭を下げた。

「……先生、ありがとうございます。それから……これまでの無礼な発言を詫びます。申し訳ありませんでした」
「顔を上げてください。……あなたの優しさと正義感は、よく伝わっていました。これからはその強みを生かして、あなたが直したいと思うところは皆と協力して改善させてほしいと思います」
「……そう、ですね。レーネやエーリカ、ルッツなら、分かってくれますよね」
「リュディガーとエルヴィンはいいのですか?」
「そんな二人は知りません!」

 ツェツィーリエはぷんとして言ったが、その口元には穏やかな微笑みを浮かべていた。
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