悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 そして、残るはエルヴィンとリュディガー。
 リュディガーの希望により彼は最後に回して、お茶会の場にはリュディガーに引きずられたエルヴィンがやって来た。

「先生。約束通りこいつ、捕まえてきましたよ。裏庭で寝ていました」
「……あんた、本当に厄介。馬鹿体力」
「ははっ、オレから逃げたけりゃ、もうちょっと体を鍛えろ。おまえ、腕もほっそいもんなぁ」
「……うるさいな」

 どうやら彼らは追いかけっこでもしたようで、エルヴィンの方は髪も息も乱れているが、リュディガーの方はけろっとしている。
 彼は普段から補助教科の武術などにも参加しているので、基礎体力や運動神経が桁違いなのだろう。

「じゃ、オレは行くよ。エルヴィン、今回くらいは逃げずに先生と茶を飲めよ」
「……分かったよ」
「ありがとうございました、ベイル君」
「先生の頼みならこれくらい、お安いものさ」

 去り際にぱちっとウインクを飛ばしてくるあたり、この攻略対象は本当に自分のことがよく分かっていると思う。

 リュディガーに追いかけ回されたからか既にお疲れ気味のエルヴィンだが、彼は存外素直に席に着いた。

「あなたと会うのも久しぶりですね、シュナイト君」
「ええ、初日以来でしょうか。逃げ回った甲斐がありました」
「そうですね、私が自力であなたを見つけられなかったのは、非常に残念です」
「……あんた、空き時間に俺のこと探してましたよね」

 彼の言う通り、ディアナはほぼ毎日エルヴィンを探していた。残念ながら彼を発見するには至らず最終的にリュディガーに頼ってしまったが、エルヴィンもある程度観念しているのではないだろうか。

 ディアナがお茶を淹れると、エルヴィンは「いただきます」と断ってから上品な仕草で茶をすすった。

(そういえば彼って、伯爵家の甥なのよね。それなら、作法がきれいなのも納得ね)

 ディアナも自分の茶を注いで飲んでいると、エルヴィンが切り出した。

「わざわざリュディガーを使ってでも俺を呼んだのは、なぜですか?」
「お喋りのため、ですかね」
「はあ。……俺から話すことは何もありません。初日に言ったと思いますが、俺は最初から進級する気がないんで」
「でも自主退学ではなくて、進級試験不合格による強制退学を望んでいるのですよね?」
「ああ、それは、自主退学だと叔父上に無理矢理戻されるのが目に見えているからですよ」

 思いのほかエルヴィンは饒舌で、皿に盛っていた菓子も摘まんだ。
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