悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 エルヴィンが去った後のディアナは一つため息をついたが、やがてバルコニーのドアが開いた。

「……あ、やっぱりお一人だな。さっきエルヴィンとすれ違ったんだよ」

 そう言ってやって来たのは、リュディガー。

「今日はありがとうございます、ベイル君。おかげでシュナイト君と話せました」
「どーも。……で? あいつ、ちゃんと会話したか?」
「しましたよ。彼の気持ちも分かりました」
「そりゃよかった」

 そう言いながら、リュディガーは先ほどまでエルヴィンが座っていた席に腰を下ろした。

「ベイル君、あなたとのお茶会は明日では……」
「ちょうどいいし、今済ませちまおうよ。茶はいいから」

 そう言うとリュディガーはエルヴィンが使っていたカップを押しやり、テーブルに肘をついてディアナを見てきた。

(うーん、さすが人気投票一位のご尊顔。我が教え子ながら色気がプンプンしてるわね)

「……そういや、先生にはまだ言ってなかったっけ。今年の前期にオレがやらかしたことについて」

 リュディガーの方から切り出してくれたので、ディアナは頷いた。

「私もざっくりとしか伺っていません」
「だよな。……職員室でオレのことは多分、女性がらみでやらかして指導を受けた問題児扱いされているんじゃないかな?」

 まさにその通りだ。
 フェルディナントなどはともかく、教員の中にはリュディガーのことを「極度の女たらし」などと悪く言う者もおり、聞いているだけで気分が悪くなっていた。

(でも、私も実際に何が起きたのかは知らなかった……)

 ゲームでも、リュディガーが一年生の頃の話はほとんど出てこなかったはずだ。

「……私から見たあなたは、同級生をまとめて喧嘩の仲裁もしてくれる頼れる生徒です」
「そりゃどうも。……まあ、先生にはそう見られてほしいと思ったからそう振る舞っただけなんだけどな」
「本当は違うのですか?」

 何やら意味深な言い方と共に注がれた流し目はスルーして問うと、リュディガーは「そういうこと」と笑った。

「ここだけの話だけど。……オレが前期にやらかした件って、簡単に言うと冤罪なんだよ」
「……。…………え?」
「びっくりした? 今の先生、きょとんとして可愛い顔してんなー」
「そ、それはいいから。……冤罪なら、どうしてそうと言わないのですか?」

 声を潜めて問うと、リュディガーは少し遠い眼差しになった。

「……言いたくても言えないんだよ。オレの実家は商会なんだけど、そこのお得意様の息子が、二年生にいるんだ。それで、今年の……七月だったかな。休日にそいつに誘われて市街地に行ったら、ちょっといかがわしそうな店に連れて行かれそうになってな」
「そ、そうですか。それは……大変でしたね」
「そう、大変大変。オレ、これでも異性関係でも真面目でありたいと思う質でね。しかも学生の身分だしそういう店に行く気はなかったんだが、実家のことを考えると断れなくて。……で、どうやって逃げようかと思っていたらその二年生が、店の女性と揉め始めた。惚れた腫れた別れる別れないだのって喧嘩していてな。それで警吏が来たんだが、二年生はオレを身代わりにして逃げた。以上、説明終わり」
「……本当の本当に冤罪じゃないですか! 信じられない!」

 思わず声を上げるが、リュディガーはからからと笑った。
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