悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「あんたならそう言ってくれると思ったよ。……でも、そいつに脅されたんだ。実家同士のつながりをなかったことにしたくなければ、大人しく罪を被れ。そうすれば、お得意様のままでいさせてやる、ってね」
「……だからあなたは、冤罪を……」
「そ。……うちの商家は、両親が必死になって興したんだ。だから、こうするしかなかったんだ」

 リュディガーは頬杖をつく腕を変えて、ふうっと息を吐き出した。

「万が一オレがこのまま勘当されても、弟がいる。あいつがここに入学するのはまだ何年も先のことだから、その頃にはオレの悪名も風化している。……だから、補講クラスに入れられてもなんとかやってやるんだ。真実を伝えることはできなくても、泥臭く這い上がってやることはできるからな」

(……ここまで、だったなんて)

 ディアナは、テーブルの上に視線を落とした。

「ヒカリン」ではリュディガーのルートも何回もプレイしたが、ここまで深いことは言われなかった……はずだ。
 もしかしたらゲームの彼はこの問題をなんとか乗り越えたのかもしれないが、いざ現実として話を聞くとその重さに胸が苦しくなる。

「……あなたは本当に、この件を皆に明かすことは望まないのですね」
「ああ、これっぽっちも。でも、なんだかおまえには聞いてほしくなってな。おまえも若いレディだというのにこんな臭い話を聞かせて、悪いな」
「いいえ。もし、話すことであなたの気持ちが少しでもすっきりしたのなら、聞いてよかったと思います」
「……はは。おまえって本当に……甘っちょろいよな」

 リュディガーは笑うと、「なあ」とつぶやいた。

「おまえ、オレたち六人全員を進級させる気でいるの?」
「……そうですね。難しそうな人もいますが、そうなればいいと思っています」
「そうかい。じゃ、オレもおまえの目標が達成しますように、ってお願いはしてやるよ」
「ありがとうございます。……それだけで十分です」

 ディアナが言うと、リュディガーもからりと笑った。
 それは、いつも彼が見せる頼れる兄貴分らしい笑顔だった。
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