悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 担任教師であるディアナとの茶会を終えたリュディガーは、バルコニーを出て廊下を曲がったところで赤金色の髪のクラスメートとかち合った。

「うおっと。なんだ、おまえまだいたのか」

 いつもディアナから逃げて昼寝場所を探しているエルヴィンは、基礎体力こそリュディガーには及ばないが隠遁能力に長けている。だからリュディガーもディアナから「シュナイト君を連れてきてほしい」と言われてしらみつぶしに探すのではなく、食堂で待ち構えていたのだ。

 エルヴィンはむっつりと頷くと、今し方リュディガーが出てきたバルコニーに続くドアの方を見やった。

「……あんた、先生になついているんだな」
「ん? ああ、まあな。あそこまで一生懸命になられたら、協力もしたくなるだろ? それにおまえと違ってオレは、進級する気があるし」

 別にエルヴィンを貶そうと思ったからではなくて純粋な事実として言うと、エルヴィンはゆっくり頷いた後に目線を逸らした。

「……少し、意外だと思った」
「オレが先生に協力することが、か?」
「ああ。……あんた、面倒見はいいし周りへの気遣いもできるけど、ここまで自発的に動くやつではないと思っていた」
「んー、そうだな。オレ自身、結構驚いているところもあるかもな」

 どこか感慨深げにつぶやいた後、リュディガーは「さて!」と手を打った。

「おまえ、いつになったら授業に来るんだ? いつもおまえの席が空いていて、先生が悲しそうにしてるんだぜ」
「……あそこまで必死になっているところを見ると、申し訳なくも思う。だが……」
「……そうかい。ま、オレごときの説得では無理だとは分かってたけどな」

 リュディガーは薄く笑うと、エルヴィンの肩をぽんと叩いた。

「でもまあ、先生のことがちょっとでも気になるのなら、一度くらいは顔を出してやれよ。……先生、わりと本気でオレたち全員の進級を願っているみたいだし」
「……」

 エルヴィンは何も言わなかったが、リュディガーは特に気にした様子もなく「じゃあな」と言うと、立ち去った。

 エルヴィンはリュディガーの背中を見送り、そしてバルコニーの方へ視線を滑らせた。今、彼女は一人でティーセットの片付けをしているのだろう。

「……悲しませたいわけでは、ないけど」

 エルヴィンはため息をつくと、ゆっくり歩き出した。
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